米国時間2017年6月2日、米経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、米プロアメリカンフットボールNFLが9月に開幕するシーズンから「ハードリカー」と呼ばれる酒類のCMを試合のテレビ中継で放送することを許可したと報道した。ハードリカーとは、ウィスキーやウォッカ、ラムなどアルコール度数の高いアルコール飲料を指す。

 NFLもこれを事実として認めたことで、米国のスポーツ界、メディア業界では「NFLもついに・・・」といった雰囲気が漂っている。

NFLの試合の模様(写真:NFL)
NFLの試合の模様(写真:NFL)
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 この問題を考えるには、まず米国社会におけるアルコール飲料の位置づけを紹介しなければならない。1920年から1933年まで禁酒法が施行されたことでも分かるように、米国では飲酒を害悪と見なす風潮があった。それは禁酒法が廃止された後も残り、特に飲酒を禁じられた21歳未満の子供達がアルコール飲料やその広告に触れるべきではないとの考えが強かったのである。そのため、一時はラジオおよびテレビでのアルコール飲料広告の放送が禁止され、それが解かれた後もハードリカー企業は1996年までテレビでのCM放送自粛を続けることとなった。

 細かな規定は州によって異なるものの、ハードリカーはワインやビールなど醸造酒を中心とした「ソフトリカー」とは別に扱われる。当然、ハードリカーの方が制限や規制は厳しく、例えばレストランなどが酒類を扱うのに必要なリカーライセンスと呼ばれる免許も、ハードリカーの方が取得は難しかったりしているのだ。

 そんな酒類の広告展開について子供を大きなターゲットにするプロスポーツのリーグや団体は、歴史的にやはり厳しい制限を加えてきた。特にハードリカーに関するスタジアム・アリーナでの広告露出やCM放送は、ほぼ禁止されてきたのである。

広告収入の減少を契機に解禁

 その流れが変わってきたのが2000年以降だ。広告収入の伸びが鈍り、成長に陰りが見えたリーグやチームが増えてきたのである。そこで収益拡大維持を目的に考慮されるようになったのが、ハードリカーの広告制限緩和というわけだ。

 最初に動いたメジャーな団体は自動車レースのNASCARだった。2004年に出場する車にハードリカーの広告を掲示することを認めたのである。

 その後、プロ野球のMLBやプロアイスホッケーNHLなどがハードリカー広告を解禁していった。リーマンショック翌年の2009年には、プロバスケットボールNBAもテレビ中継で映るコートサイド広告にハードリカーの広告を掲示することをオーナー会議で許可している。

 だからといって、手放しでハードリカーの広告を掲示できるわけではない。NASCARの場合、「節度のある飲酒を」といった啓蒙ステッカーを貼ることが義務づけられ、NBAは2018年シーズンからジャージーに広告を入れることが許可されたが、酒類に関しては禁止されている。このような一定の制限は設けられ続けている。実際、広告解禁にあたって反飲酒団体から抗議が出たこともあったようだ。