NBAは契約交渉でのデータ使用禁止

 このように見ていくと、ウエアラブル端末はMLBの現場へ急速に浸透しているように思えるが、実際には複数の課題に直面している。端末から得られる生体データは、選手のプライバシーに当たるという考えが出てきたためである。

 ケガの予防など、確かにプラスの面はあるものの、同時に個人の能力が数値化されることでそのデータが選手の絶対評価につながり、契約交渉などの材料とされることを嫌がる選手は多い。実際、米プロバスケットボールのNBAでは、契約交渉にウエアラブル端末のデータを使用することが禁止されるに至っている。さらに、データを共有されることへの懸念も高い。

 こうしたこともあって、端末の試合中の使用認可は、MLB機構とMLB選手会の合意なしには行えない状況であり、その使用方法にも様々な制限が設けられている。

リアルタイムのデータ閲覧は禁止

 まず、ウエアラブル端末を実際に使用するかどうかは完全に選手個人の判断に任されている。得られたデータにアクセスできるのも選手個人と所属チームだけ。端末とそのサービスを提供する企業にもデータを使用する権利は認められていない。さらにデータアクセスは試合の前後のみ認められ、試合中、さらにリアルタイムにデータを見ることは禁止されている。

 またデータをテレビ中継の中で表示するなど、商用利用にも関係する組織全ての許可が必要であり、どこまで利用できるのかは混沌とした状況にある。

 ウープ社のウィル・アメドCEOは「スポーツビジネス・ジャーナル」誌に対し、こうした対応のため「全てをシェアするのと、全くシェアしないプライバシー設定の間に27段階のレイヤーを設けている。0か1の二進法ではいけない。プライバシーは二進法ではないから」と細心の注意を払っていることを強調している。

 さらに、依然としてセンサーの大きさや重さなど使用感に不満を持つ選手も多い。このようにウエアラブル端末の導入・使用については、意外にも選手側からの抵抗が強いようだ。実際、昨シーズンにモータス・スリーブもしくはゼファー・バイオハーネスを使用した選手は「わずか20、30人しかいなかった」という話もある。

 進化し続けるウエアラブル端末とその解析技術は、プロスポーツの現場で試合中にも活用できるかを評価する、“重大局面”に入ったといえるだろう。