「全米で最も技術的に進んだスタジアムにする」。米MLBのアトランタ・ブレーブスの新本拠地となるジョージア州アトランタの「サントラスト・パーク」が、2017年2月21日にオープンした。

 スタジアムに導入された有線ネットワークは回線速度100Gビット/秒(bps)が2回線と、「スマートスタジアム」の代名詞的な存在のカリフォルニア州サンタクララのリーバイス・スタジアムの40Gbpsを大きく上回る。まさに最新のスマートスタジアムなのだが、見所はそれだけではない。

 スタジアムを取り囲むように、「ザ・バッテリー・アトランタ」と名付けられた大型劇場を含むエンターテインメント・商業施設のほか、オフィスビルや居住施設などが併設されている。スタジアムを中心とした複合施設で、“街づくり”をするのが目的だ。

 日本でも昨今、「スタジアム・アリーナ改革」がスポーツの産業化の柱として注目を集めているが、米国では既に商業施設を一体化させた複合型スタジアムで、都市再生をすることが一種のトレンドとなっている。

ラストベルトに位置する殿堂

 そうした複合施設計画の中で、とりわけユニークなのがオハイオ州カントンの「ホール・オブ・フェイム・ビレッジ」(HOFビレッジ)、日本語で言うなら「殿堂村」だ。

HOFビレッジの夜のイメージ(図:Pro Football Hall of Fame)
HOFビレッジの夜のイメージ(図:Pro Football Hall of Fame)
[画像のクリックで拡大表示]

 この殿堂は「プロフットボールの殿堂」である。同地は1920年にプロアメリカンフットボールのアメリカン・プロフェッショナル・フットボール・アソシエーション、現在のNFLが設立された場所。その初期に成功を収めたプロチーム、カントン・ブルドッグスが本拠地としていたため、プロアメリカンフットボール発祥の地として1963年に殿堂が開館することになった。

 以後、NFL人気の高まりもあり、年間約20万人が訪れる施設となっている。特に毎年8月最初の週末にはその年の殿堂入りメンバーの式典が開催され、さらにNFLのプレシーズン最初の記念試合が行われる。その際には2万~3万人のファンが来場するため、周辺地域まで宿泊施設が埋まってしまうほどだ。

 一方、カントン自体は人口約7万3000人の典型的な米国の田舎町である。オハイオ州という場所でお気づきの読者もいるかと思うが、昨年の大統領選挙で話題となったラストベルト、つまり“錆びた地域”に位置する。以前は主な産業として製造業が挙げられていたが、近年は衰退傾向にあった。そこで街の振興策として2015年に打ち出されたのが「HOFビレッジ計画」である。

HOFビレッジ内部のイメージ図(図:Pro Football Hall of Fame)
HOFビレッジ内部のイメージ図(図:Pro Football Hall of Fame)
[画像のクリックで拡大表示]

殿堂をテーマパーク化

 この計画は、殿堂を中心に複合施設化を図り、街づくりを行うというものだ。殿堂が中心となり、不動産開発企業やホテル運営会社などが参画する民営のプロジェクトで、建設費は5億ドル(約575億円)と見込まれている。

 計画のポイントは大きく4つ挙げられる。まずは殿堂自体の拡充だ。これまでは、こうした施設によく見られるように、名選手が使用したユニフォームや用具など記念の品々や殿堂入りメンバーの胸像など、展示が主だった。

 そこにホログラムやVR(仮想現実)などを利用した体験型のアトラクションを複数作り、最新のエンターテインメント施設、さらにはプロフットボールのテーマパークにしようというのである。実際、2016年夏には往年の名コーチや名選手がホログラム映像となって過去の名場面を解説するアトラクションがオープンした。