「大谷選手のメジャーリーグ移籍は2019年まで持ち越しか?」。2016年12月初旬、こんなニュースがメディアでしきりに報じられた。2017年オフにもポスティングで米MLBへ移籍すると見られてきた北海道日本ハムファイターズの“リアル二刀流”、大谷翔平選手だが、MLB機構が批准した「新労使協定」によって移籍が延期される可能性が出てきた。今回は、「大谷移籍問題」のほかにも米国で何かと話題になっているMLBの新労使協定を取り上げる。

 新労使協定は、MLB機構とその選手会との間で2016年11月30日に基本合意に至り、同12月中旬にチーム・オーナーたちの承認を経て正式に批准された。それまでの労使協定が12月1日に失効することになっていたため、一時は選手をチーム施設から閉め出すロックアウトや21年ぶりのストライキの可能性もささやかれていた。

MLBの公式サイト(画像:MLB)
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 しかし前回のストライキ時に、「金持ち同士の争い」などと呼ばれ、双方がイメージと金銭面で深く傷ついたこともあって、今回は期限前の合意となった。新協定の有効期間は5年で、2021年12月1日に失効する予定だ。

 新労使協定には試合のスケジュールやオールスターゲームでの選手選考方法、クラブハウスでの食事の提供など、幅広い規定が新たに盛り込まれている。当然チームの運営や選手との契約に関するものも多く、それがチームと選手によっては損得が生じるのでは、と何かと話題になっている。

ヤンキース、「ぜいたく税」対象から除外

 まず紹介するのが「収益分配制度」だ。これは各チームの総収入からスタジアムでの経費を除いた純収入から決められた税率分をリーグが課税徴収し、収入が少ないチームに対して分配する戦力均衡を狙った制度の一つだ。

 これが今回の新協定では税率が31%と以前と変わらないものの、純収入の算出方法が変更された。一見、大きな変更ではないものの、これにより得をするであろうと報じられているのが人気No.1のニューヨーク・ヤンキースだ。

 ヤンキースというと後述する「ぜいたく税」を含め、有力選手と大型契約を多数結ぶ金満チームというイメージが強い。にもかかわらず、全国紙USA TODAYやAP通信などによると、課税対象から除外されることになるという。前協定下ではヤンキースは1500万ドルから2000万ドルをこの制度の下で支払っていたが、23億ドルの建設費を投じて2009年にオープンした現在のヤンキー・スタジアムに関して、残るコスト負担が経費として認められるというのだ。

 一方、これまで収益配分を受けられるチームは全チームの半分にあたる15チームだったが、今回の改定で13に減った。ただそれとは別枠で、2017年から4年間はオークランド・アスレチックスに分配されることになった。

 アスレチックスは、本拠地のオークランド・アラメダ・カウンティ・コロシアムが1966年開場と老朽化している。さらにアメリカンフットボール兼用スタジアムで他の球場と比べて観戦しづらいため、長年、同じ地域内での新スタジアム建設と移転を模索してきた。

老朽化が進んでいるアスレチックスの本拠地、オークランド・アラメダ・カウンティ・コロシアム。ライトを守っているのはシアトル・マリナーズ在籍時のイチロー選手。撮影は2001年4月11日。この日、あの「伝説のレーザービーム」をイチロー選手が3塁に投じた(写真:内田泰)
老朽化が進んでいるアスレチックスの本拠地、オークランド・アラメダ・カウンティ・コロシアム。ライトを守っているのはシアトル・マリナーズ在籍時のイチロー選手。撮影は2001年4月11日。この日、あの「伝説のレーザービーム」をイチロー選手が3塁に投じた(写真:内田泰)
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 一時はオークランドの南にあるカリフォルニア州フリーモントで新スタジアム建設が決定しかけたが、2009年に地域住民の反対などでこれが頓挫。カリフォルニア州サンノゼへの移転話なども持ち上がったが、サンフランシスコ・ジャイアンツのフランチャイズ地域内となることでジャイアンツやMLB機構の反対に合い、現在は移転計画がまったく見通せない状況が続いている。そんなアスレチックス救済の意味も含めた4年間の分配決定なのだ。

 だが、この措置がアスレチックスを逆に困窮させることになるのでは、という見方も多い。アスレチックスはこれまで年間3400万ドル程度の分配を受けていたが、新協定ではこれが2017年に75%にカットされ、さらにその後毎年25%ずつ減らされることになっている。これまでなら毎年多額の分配を受けられていたのが、今後は毎年減額され4年後にはゼロにされてしまう可能性が高いのだ。

 新スタジアム問題はとても4年間で解決できるものではなく、下手をすれば進展のないまま分配終了のタイムリミットを迎えるのでは、というのだ。今後アスレチックスは、本拠地の本格的な移転の検討に入るかもしれない。

 ジャーナリストの渡辺史敏氏は2017年3月10日、イベント「ヘルスケア&スポーツ街づくりEXPO2017」(東京ビッグサイト)で、『「スマートスタジアム」米国最前線~競争勃発、「IT武装で体験向上」「複合施設化で街づくり」』と題した講演(事前登録で無料)をする