ぜいたく税はより厳しく徴収

 もう一つの戦力均衡策であるぜいたく税制度にも手が加えられた。この制度は、各チームの選手年俸総額が決められた上限を超えた場合、その超過額に一定の税率をかけた額をぜいたく税として納めさせるというものだ。徴収されたぜいたく税は、選手の福利厚生などに充てられる。

 年俸総額の上限は、2016年までの3年間は1億8900万ドルに据え置かれてきたが、新協定では2017年に1億9500万ドルにアップ。以降、2018年が1億9700万ドル、2019年が2億600万ドル、2020年2億800万ドル、2021年2億1000万ドルと年を追って増やされる。つまり、毎年各チームやリーグが成長し、経済規模が拡大すると見込んだ規定となっているのだ。

 その一方で、課税率が以前より厳しくなっている。前協定では最大でも4回以上超過したチームに50%課税となっていたが、新協定では初回の20%に始まり、3回以上で50%課税に変更された。さらに超過額が2000万ドルから4000万ドルの場合、追加で12%が、4000万ドル以上の場合42.5%から45%がさらに課税されることになった。

 2016年に最も年俸総額が多かったロサンゼルス・ドジャーズの場合、2億3500万ドル余りだったから一挙に92.5%課税で約3700万ドルを納めなければならない計算になる。この点では、年俸総額が約2億ドルだったヤンキースも負担増になりそうだ。また、2018年以降は年俸総額の超過チームはドラフトにおいても指名権が不利になる。

大谷選手のMLB挑戦は2019年オフか

 果たしてこれほどの負担増を受け入れるのか、それとも負担軽減のために、大物選手との契約を減らしていくか、各チームは経営判断を迫られるだろう。

 さて、日本ハムの大谷選手のMLB挑戦の時期が遅れることになるかも、と日本でも大きな話題になっている変更が行われたのが「インターナショナル・ボーナス・プール」という規定だ。これは各チームが米国外出身の選手と契約する際の契約金の上限を定めたものである。その適用年齢が22歳から24歳に引き上げられたうえ、契約金が最大600万ドルまでとされた。

 この規定は、2015年にボストン・レッドソックスがまだ19歳だったキューバ出身のヨアン・モンカダ内野手と3150万ドルもの金額で契約を結んだことなどが直接のきっかけになって策定された。狙いは、キューバを中心とした中南米出身選手に対し、まだ米国でのプレー経験も無いのに大型契約が結ばれることに歯止めをかけようというものだ。

 これが、現在22歳の大谷選手にも適用されることが明らかになったのである。当初、日米間で結ばれた選手協定があるため、適用外になるとの見方もあったが、その後やはり適用されることが明らかになった。

 米国でも大谷選手に対する評価は高く、2億ドル規模の契約になるだろうとされていたのに、600万ドルにしかならないのである。米国のメディアでもこの件は落胆を持って受け取られている。現時点では、同選手が25歳になって大型契約を結べるようになる2019年オフまで待つのでは、という観測が大勢だ。

 中南米各国にはそれなりの年俸を出せるプロリーグがないだけに、MLBの今回の新規定は本来の目的での効力は持ちそうだ。同時に、規定をクリアするまで本国よりも高年俸が望める日本をステップアップの場として求める中南米出身の若手有望選手が出てくる可能性もある。

 新協定はMLBとチームの運営、さらには日本のプロ野球界にもさまざまな影響を及ぼしそうだ。

 ジャーナリストの渡辺史敏氏は2017年3月10日、イベント「ヘルスケア&スポーツ街づくりEXPO2017」(東京ビッグサイト)で、『「スマートスタジアム」米国最前線~競争勃発、「IT武装で体験向上」「複合施設化で街づくり」』と題した講演(事前登録で無料)をする