選手の疲労回復やコンディションの向上のために「睡眠科学」を導入することが、米国のスポーツ界で注目のトレンドとなっている。

 この分野の先駆者とも言えるのが米メジャーリーグMLBのボストン・レッドソックスだ。2013年から本拠地フェンウェイ・パークのクラブハウス内にスリーピング・ルーム、つまり寝室を設置しているのだ。2017年の開幕前には寝具メーカー、米ベッドギア社との提携の下、大幅なリノベーションまで行われている。

ボストン・レッドソックスはフェンウェイ・パークのクラブハウス内に寝室を設置している。2017年の開幕前には寝具メーカー、米ベッドギア社との提携の下、大幅なリノベーションをした(写真:ベッドギア社)
ボストン・レッドソックスはフェンウェイ・パークのクラブハウス内に寝室を設置している。2017年の開幕前には寝具メーカー、米ベッドギア社との提携の下、大幅なリノベーションをした(写真:ベッドギア社)
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 2階のジム裏に設けられたこの部屋は145平方フィート(約13平方メートル)と狭いが、疲労回復効果をうたう同社のマットレスを使用した2段ベッド2台が設置されている。さらに選手個々人に合わせてカスタマイズされた同社の枕を入れた棚があり、選手たちはいつでも自分用の枕を取り出して昼寝ができるようになっている。

眠気と開幕からの期間に関連

 レッドソックスがこのスリーピング・ルームを導入するきっかけとなったのは、2013年から2015年まで在籍したマイク・ナポリ内野手が「睡眠時無呼吸症候群」を罹患したためだという。その後、サム・ケネディ球団社長は「2013年以降、我々は選手たちが最高の潜在能力を発揮するのに必要となる休息を取る方法を見つけるのに集中している」と語っている。睡眠が選手のパフォーマンスに重要な要素であるという認識がチーム内に広がり、本格的に取り組まれるようになったのだ。

 実際のところ、MLBは1シーズン162試合と試合数が多く、ほとんど毎日プレーしなければいけないうえ、時差のある遠征も多いので睡眠がうまく取れない選手も多いようだ。2013年には米バンダービルド大の医学部教授が、9月になると4月よりストライクゾーンの判断が悪くなるという研究結果を発表している。

 同年、選手が感じる眠気とシーズン開幕からの期間に関連が見られるという別の調査結果も発表された。さらに2017年には米ノースウェスタン大学が、時差ぼけが有意かつ明白に選手に影響を与えていることが分かったと発表している。

 ベッドギア社はレッドソックス以外に北米プロバスケットボールNBAのダラス・マーベリックスとパートナー契約を結んでおり、他にもMLBのサンディエゴ・パドレスなど複数のチームに利用している選手がいるということだ。

十分な睡眠で障害率70%減

 一方で、選手たちの睡眠の質や時間を測定・分析・管理し、アドバイスまでをする睡眠科学プログラムサービスを導入する動きもここ1~2年で加速している。それが顕著に現れたのが、2017年秋に大学アメリカンフットボールで有力校が次々と関連企業との契約を発表したことだ。

 2016年の全米チャンピオンであるクレムゾン大学と準優勝校アラバマ大学の両方が契約したのは、睡眠指導プログラムの専門企業である米ライズ・サイエンス社。同プログラムの特徴は、一晩を通じて正確な心拍を測定できる高性能な圧力センサーを搭載したリボンをベッドのマットレスの下に敷き、選手の睡眠時間と睡眠の質を測定することに始まる。その後、同社は得られた心拍変動を分析し、回復レベルを見積もって、必要であれば睡眠時間の延長や昼寝を推奨する仕組みだ。睡眠に関する個別の指導はスマートフォン向けアプリを通じて行えるようになっている。

 同社はノースウェスタン大学の工学部の学生3人によって2014年に設立され、4カ月間行われた同大学のアメリカンフットボールチームでの導入実験では、一晩平均54分の睡眠改善につながったとしている。さらに一連の研究で、十分な睡眠を取ると障害率が約70%、風邪を引く確率が約30%減少、反対に睡眠不足だと反応時間が18%、代謝が30%以上悪くなったという。