医療分野で多用、樹脂射出成形による微細加工

 「成形」は、特に量産加工において広く用いられる加工技術です(図1)。成形技術の中でも特に一般的なのが、樹脂(プラスチック)原料を加熱溶融し、加圧した上で金型に注入して成形する、樹脂射出成形です。樹脂は金属と比較して安価な上、量産の場合には射出成形によって1個当たりの加工コストも抑えられる、という特性があります。

図1 樹脂射出成形のイメージ
図1 樹脂射出成形のイメージ
出所:親和工業
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 この成形加工において、微細加工技術が求められる分野の1つが医療分野です。特に近年、医療分野においてはさまざまな機器においてディスポーザブルタイプ(使い捨てタイプ)の利用が進んでおり、金属と比較して手軽かつ安価に量産できる樹脂材料が多用されています。

 例えば、図2は麻酔針の孔の中に挿入しておく芯です。樹脂成形品です。脊髄などに麻酔針を刺す際、針の中に組織が詰まることを防ぐ役割があります。

図2 樹脂射出成形による麻酔針の芯
図2 樹脂射出成形による麻酔針の芯
∅0.6かつ125mmの細い部分の抜きテーパーは0度、かつパーティクルライン(PL)や駒割の線やボイドが厳禁という要求仕様を満たしている。写真:親和工業
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 これだけ細く、かつ長い芯を抜きテーパーなし、パーティングライン(金型の合わせ目が成形品に転写されてできる跡)なしで成形を行うのはかなり困難であり、従来はこの芯は金属製でした。ところが芯を金属で造ると、麻酔針の孔から芯を抜く際に微量の金属粉が発生してしまい、金属アレルギーを持つ患者に悪い影響を与えることが懸念されていました。また金属製の芯で看護師が誤って自分の手を刺してしまうなど、感染事故が生じる危険性もありました。