主軸回転数と振れ精度・熱変位の両立

 微細加工用マシニングセンターの分野で、微細加工の専業メーカーとして知られ、また実際に微細加工を行う受託型加工業に広く導入されているのが、静岡県焼津市に主力工場を持つ碌々産業です。

 本連載の前回でも述べましたように、一般加工用マシニングセンターの主軸回転数は毎分1万~2万回転なのに対し、微細加工用マシニングセンターは毎分4万回転以上であるところ、同社のハイエンド機「Android II」は主軸回転数毎分6万回転です。そして驚くべきことに、これだけの高速回転数であるにもかかわらず、スピンドルの振れ精度を回転数全領域において1μm未満に抑えています。

 さらに、これだけの回転数となると、スピンドルとスピンドル用モーターは相当の発熱を生じ、機械のX・Y軸方向とZ軸方向に熱変位を生じます。しかし同機の場合、X・Y軸方向に対しては発熱を鋳物側に伝えないように2重冷却が施されており、排熱・断熱・構造上の工夫により、スピンドル発熱で生じる熱変位も1μm未満に抑えました。

 Z軸方向に対してはどんな冷却を施しても熱変位をゼロにすることはできないため、絶対値の伸び量を押さえるというよりも早く伸ばしきってしまって安定した状態を維持できるスピンドル構造となっています。伸びきった後の変位は1μm未満です。

図1 Android IIの主軸構造
図1 Android IIの主軸構造
ダブルジャケット方式により熱変位を抑制した。冷却油の温度管理幅は±0.1℃。 出所:碌々産業
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 微細加工を実現するために、毎分6万回転というマシニングセンターとしてはかなりの高速回転と、またそれと本来は相反するはずの振れ精度・熱変位を1μm未満に抑えるという、極めて難易度の高い技術的課題を解決しています。