市場での不具合発生を是とするのか

 なぜ、設計プロセスの逸脱は許されないのか。皆さんは気付いていると思うが、製造業は「自然を加工する業」だということに尽きる。言い換えると「自然はだませない」。これを踏まえて取り組まなければならないからである。

 つまり、各企業がルール化している設計プロセス通りに業務を進めるか否かは、「市場での品質不具合の発生を是とするか否か」の選択に通じる。社内でルール化された設計ステップを1つでもパスすることは、すなわち、市場での品質不具合発生を是とすることだ。上司や会社のトップが設計プロセスの逸脱を黙認すれば、「品質不具合が発生しても仕方ない」と意思表示したことになる。

 現実に、そのようなことを意思表示するトップはいないし、設計者も市場不具合を出さないという思いで取り組むはずだ。従って、ルールは、何があろうと守る。その選択肢しかないということだ。

 なぜ、設計プロセスを逸脱すると品質不具合の発生を是とすることになるのか。企業の現設計プロセスは、品質不具合などの失敗経験から得られた教訓を仕事の仕組みに落とし込む。これを創業以来延々と繰り返すことで得られたものだ。多くの先達の継続的な改善の結果、得られたものである。従って、十分条件に至っているかはさておき(これからも継続的な改善を行うという意味だ)、必要条件であることに違いない。だから、DRや品質保証会議をパスするということは、「品質不具合が起こってもやむなし」ということを選ぶことになる。

 もちろん、設計プロセスをルール通り行うのは、掛け声だけでできるものではない。よくあることだが、開発している製品の量産出図時期が迫り、夜遅く帰る日が続いている時に限って、量産している製品で市場における品質不具合が発生する。市場品質不具合は、待ったなしで対応しなければならない。全力で取り組むことになるが、本来の設計業務が遅れることは許されない。出図が遅れれば後工程に多大な迷惑を掛け、納入先メーカーにも影響が及ぶこともあり得る。だからと言って、設計プロセスをパスすることはあってはならない。当時を振り返ると、設計室の中で他の製品を担当しているグループから設計者を一時的に業務シフトし、全員の力で乗り切った。

 もう一度言うが、職場でルール化された設計プロセスは守らなければならない。そのステップを1つでもパスするというこことは、品質不具合発生を是とすることを承認したのと同じである。

 忙しさを言い訳とし、ルールがうやむやになっていないか。その結果として、市場不具合発生を是とした選択を行っていないか、一度振り返ってほしい。