ワールドテック 代表取締役、元デンソー設計開発者 寺倉 修 氏
ワールドテック 代表取締役、元デンソー設計開発者 寺倉 修 氏
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 世間を騒がせている神戸製鋼所の品質データの偽装報道で、「特採(トクサイ)」という言葉が出てきたので驚いた。この企業で特採がどのように扱われていたかはともかく、私は新聞記事でこの言葉を目にしたのは初めてだ。読者の多くも同様ではないだろうか。ものづくりの現場で仕事をしていたころのことが思い浮かんだ。今回は、この「特採」を取り上げる。

 「特採」について、私は次のように認識している。

「部品や製品、材料などの開発設計目標値(以下、目標値)に対し、生産されたものがその目標値を満足しなくても、それぞれの用途(以下、上位システム)の目標値を満足する」と上位システムの担当部署が判断した場合に、期間などの条件付き、もしくは無条件で、目標値を外れたものを特別に採用すること──。

 ちなみに、上位システムへの影響とは、組み付けに課題が出る、必要とされる強度が不足する、性能が出ない、などいろいろある。

 目標値はさまざまだ。部品では表面性状や表面処理などがあるが、何と言っても寸法だろう。製品では機能や性能などだろうし、材料では引っ張り強さや弾性率、硬度など多くの物性値が対象となる。

 ここでは部品の寸法を取り上げよう。寸法には全て公差がある。(理論値という表記がない限り)寸法公差のない寸法は存在しない。加えて、公差はものが公差いっぱいに振れても、必ず上位システムの目標値を満足し、上位システムが成立するように設定されている。この「公差の基本」を踏まえ、部品寸法が公差から外れた場合は、上位システムへの影響を考える。

 上位システムへの影響では、さらに「公差の精度」も考慮しなければならない。公差の精度は公差の種類で表現できる。公差の種類には、普通寸法公差と寸法に直接付けられた公差がある。前者は、ラフな公差を許せる寸法に適用される。例えば、プラスチック成形品では「6mm以下では±0.25mm」、「30mmを超えて50mm以下では±0.6mm」など、長さ寸法の区分で一律に決められた許容幅を適用する。切削など高精度の加工が期待できるものは、狭い許容幅を、ダイカストや鋳造などは広い許容幅を設定する。一方、寸法に直接付けられた公差は、許容幅が厳しい。例えば「X±0.05mm」などだ。

 従って、特採は「公差の基本」と「公差の種類」を踏まえ、上位システムへの影響を見極めて判断することになる。その結果は以下の通りだ。