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 前回のコラムで、仕事のフロントローディングの大切さを取り上げた。最近、神戸製鋼所の品質データ偽装の報道が目に付く。ただ、複数の新聞社の記事を読んでも不具合の状況がいまひとつ分からない。原因についてはなおさらだが、神戸製鋼所で問題になっている職場でもフロントローディングは普遍的な課題だろう。

 さて、前回は開発設計段階のフロントローディングは、設計目標値の設定にあると述べたが、今回は品質不具合の未然防止の代表的な活動である「設計DRBFM」のフロントローディング(以下、事前準備)を取り上げる。事前準備の主なものとしては[1]実施メンバー、[2]実施時期、[3]対象製品をよく知ること、が挙げられる。

 まず、[1]の実施メンバーだ。大切なのは、複数の人が参加すれば何とかなるというわけではないことだ。期待に沿った効果が見込めるかどうかは、参加するメンバーのレベルに大きく依存する。

 製品設計には、製品の固有技術と各種の要素技術が必要だ。例えば、モーターを例に挙げると、トルクと回転数の基本性能を出すための固有技術だけではなく、筐体を構成する材料や、その加工方法に関する知見がなければ議論は深まらない。従って、次のようなメンバーが必要だ。

・「製品固有の技術の観点」から、対象製品の設計や品質、生産技術、生産、さらに必要に応じて購買や企画など、その製品に直接関係する部署の従事者。
・「各種要素技術の観点」から、材料(鉄鋼や非鉄、樹脂、ゴムなど)や、加工(プレスやダイカスト、冷鍛、切削など)、接合(ねじ締結や接着、かしめ、溶接など)、表面処理、はんだ付け、生産システムなど多方面の専門家。

 このように、設計部署以外の関連部署や専門家の協力を得て、あらゆる角度から詳細な検討が必要となる。つまり、参加するメンパーや参加者の技術レベルの差により、解析レベルに大きな違いが出る。この認識が大切だ。

 [2]の実施時期については、DRBFMを製品設計段階の各節目で行うことが望ましい。具体的には、「構想設計」と「詳細設計」、「設計変更した場合」の各段階である。しかも、各段階のDRBFMは位置付けが異なることに注意が必要だ。

 構想設計段階では、機能や性能、信頼性、コストなど、市場で商品として受け入れられる製品の仕様決めや、その仕様を実現するための基盤技術のめど付けなどに取り組む。従って、構想図などで設計検討を行うため、構想設計段階のDRBFMの対象はシステムや重要な部位となる。

 一方、詳細設計段階のDRBFMは、構想設計段階で決定された製品仕様、すなわち設計目標値を100%達成するための活動である。つまり、100万個造っても1個たりとも品質不具合を出さない活動だ。工程や納入先、市場で不具合を出さない品質不具合の未然防止がこの詳細設計段階の狙いなのである。従って、この段階ではDRBFMが必須であり、しっかりと取り組まなければならない。

 そして、設計変更した場合のDRBFMは、量産開始前に設計変更するときや、量産開始後に設計変更しなければならなくなった際の取り組みである。設計変更という行為は、品質不具合を起こす危険を内包している。品質不具合の対策として設計変更を行うと、一層の品質不具合を引き起こすことに陥りやすい。従って、設計変更した箇所だけではなく、少し離れた部位や部品、間接的に関係する部品などへの影響も抜けなく検討することが必要だ。一見簡単に思える設計変更でも、DRBFMを使って検討抜けを防ぐことが大切なのである。