ワールドテック 代表取締役、元デンソー設計開発者 寺倉 修 氏
ワールドテック 代表取締役、元デンソー設計開発者 寺倉 修 氏
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 最近、京都で仕事があってクルマで移動した。インターチェンジを降りてすぐの場所なので、インターネットで地図をちらりと見ただけで出発した。私はクルマにカーナビゲーションシステムを付けていない。ところが、インターチェンジを降りると道に迷う羽目となった。思っていた道が、一方通行で曲がれなかったからだ。日暮れを過ぎて、2時間も右往左往してしまった。移動という作業の準備が不足していたのだ。

 このコラムで事前準備の大切さを何度か取り上げた。かっこよく表現すると、フロントローディングが大切だということだ。私の場合、京都の目的地に行く際にフロントローディングが不十分だったということになる。

 さて、仕事では前工程の準備不足や検討不足は、後工程にもろに影響する。開発設計段階の検討不足は、工程設計を複雑にする、作業者に組み付け難い作業を強いる、市場で不具合を起こす製品を知らずに生産し続けるなど、生産準備と生産段階に多大な弊害をもたらす。当然だ。後工程で設計段階の準備不足や検討不足を見いだして修正することはできないからである。

 だからこそ、開発設計段階はものづくりの流れの中で最もフロントローディングすべき段階だと言える。開発設計段階でフロントローディングにしっかり取り組まないと、生産準備と生産段階の両方に迷惑をかけてしまう。

 そして、実は開発設計段階の中でも、さらにフロントローディングが必要となる。開発設計段階は多くのステップで構成されることは既に本コラムで述べた通りだ。ここでも最初の一歩が大切なのである。

 開発設計段階のステップを振り返ろう。設計目標値の設定や構想設計、詳細設計、試作品製作と評価のステップから成るメインプロセス。品質管理ツールの活用や過去のトラブル(過去トラ)の反映などメインプロセスの質を高めるサポートプロセス。デザインレビューや品質保証会議などで構成されるマネジメントプロセス。これら3つのプロセスが組み合わさり、全体は数十に及ぶステップとなる。

 多くのステップがあるが、特に重視すべきは最初のステップ、すなわち設計目標値の設定だ。なぜなら、他のステップは全て、この設計目標値を達成するためにあるからだ。開発設計段階でフロントローディングすべきは、設計目標値の設定なのである。