ワールドテック 代表取締役、元デンソー設計開発者 寺倉 修 氏
ワールドテック 代表取締役、元デンソー設計開発者 寺倉 修 氏
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 「品質不具合は、同じ原因の繰り返しが多い」。あるメーカーの品質部門担当者はこう語った。最近、私がその企業を訪れた際に聞いた言葉だ。このメーカーは長い歴史を持つ。そのため、私が抱いた感想は「やはり、そうか」というものだった。

 話題が過去のトラブル(過去トラ)になった時、課題は何かと問うた。すると、「管理上の教訓に不安がある」とのことだった。過去の失敗からは「技術上」だけではなく、「管理上」も併せて振り返らなければならない。

 これまで私は品質部門の人から意見を聞く機会がたくさんあった。それらを振り返ると、「管理上の教訓が手薄である」と言う人が多い。その心配はもっともなことだ。品質不具合の未然防止には、管理上の教訓を残して生かすことが大変重要である。先のコラムでも残すべき教訓について触れたが、今回は「管理上の教訓」を掘り下げたい。

 自動車部品に使われる接点は非接触式に置き換わってきた。だが、かつてはメカ式接点が主流で、導通不良に悩まされるケースが多々あった。例えば、接点の表面にシリコーンから出る分子成分が付着し、それが絶縁膜を形成する。すると、接点部に微弱電流が流れにくくなる不具合が発生してしまう。

 この接点に関する不具合の教訓について考えよう。不具合現象の把握から教訓の見極めまでのステップは、以下のようになる。

ステップ1:「現象の把握」は、X接点部の導通不良。
ステップ2:「真の原因(メカニズムも含む)」は、Y部位のシリコーンからZ分子成分が蒸発し、○○の影響で接点表面に酸化膜を形成すること。この酸化膜形成反応のメカニズムは□□。
ステップ3:「対策」は、シリコーンを成分が異なるF剤に変更すること。

 次に教訓に進む。ここで、技術上の教訓はステップ1~3を踏まえて判断する。

ステップ4-1:「技術上の教訓」は、(例えば)「シリコーンを接点近傍で使用しない」こと。

 そして、管理上の教訓については、答えは次の通りだ。

ステップ4-2:「管理上の教訓」は、「ここまでのステップだけでは分からない」である。実は、この見極めが難しい。

 管理上の教訓とは、「仕事のやり方のまずさ」に対する教訓のことだ。シリコーンを接点近傍で使った行為は結果である。仕事のやり方が異なっていれば、対策剤を最初から選定していた可能性があるはずだ。あの時点では、あのような取り組みをしたが、このように取り組んでいれば不具合を起こさなかった、などと振り返ることで、不具合につながった仕事のやり方の真の原因を見極める。その原因を裏返せば、それが管理上の教訓となる。