不具合発生の背景で変わる

 管理上の教訓が一筋縄でいかないのは、不具合発生の背景により、その教訓がさまざまに変わるからである。技術上の原因が同じであってもだ。例えば、次のように変わる。

・基準類に「シリコーンを接点近傍で使用しない」と示している場合、管理上の教訓は「設計基準の順守を徹底すべし」となる。
・不具合に関する知見が職場にあるにも関わらず、いまだに設計基準に反映されていない場合は、管理上の教訓は「設計基準を最新の状態へ見直すことを徹底すべし」となる。
・不具合に関する知見が職場にない場合は、「耐久評価後の製品の精査を徹底すべし」や、さらに遡って「市場環境を反映した耐久評価条件の適正化を測るべし」などが管理上の教訓に該当するかもしれない。
・お客様や市場からの回収品を精査すれば兆候を確認できる可能性があると判断した場合は、管理上の教訓は「回収品の解析を徹底すべし」などが考えられる。

 このように、管理上の教訓を見極めるには、「仕事のやり方のまずさ」をさまざまな視点から考えなければならない。大きな品質不具合の場合は、開発スタート時から発生するまでの全ステップを振り返ることになる。仕事のコンカレント活動を踏まえると、設計や品質、生産技術、生産、さらに必要に応じて企画や購買など、その品質不具合に関係する全ての部署が集まって議論しなければ、真の原因を見極めて教訓を得ることは難しい。

 私が設計者としてデンソーで働いていた時には、技術上の対策が一段落すると、会社の保養所に泊まり込み、振り返り会を行うことがあった。議論するのは、言うまでもなく「仕事のやり方のまずさ」、すなわち「管理上の教訓」の見極めである。それほど品質不具合を起こした場合は、仕事のやり方を振り返ることが大切なのだ。

 振り返った結果得られた教訓は、2段階で処置しなければならない。第1段階は、技術上の教訓と併せて、過去トラに残すことだ。過去トラは「技術上の教訓」と「管理上の教訓」が共に充実していることが大切である。続く第2段階は、仕事の仕組みに反映することだ。そうすれば「設計力」が向上し、1ランク上の品質不具合を防ぐ取り組みにつながる。

 管理上の教訓の見極めは簡単でない。だが、その半面で管理上の教訓は無限というほど多くはないと、私は経験上捉えている。歴史のある企業では経験し尽くしている感があるのではないか。

 管理上の教訓を今一度棚卸しし、それが仕事の仕組みへ十分反映されているだろうか。そして、その反映された仕組みが実行できているだろうか。改めて振り返ってみてほしい。