ワールドテック 代表取締役、元デンソー設計開発者 寺倉 修 氏
ワールドテック 代表取締役、元デンソー設計開発者 寺倉 修 氏
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 「設計力」について、コラムを書いていきたい。製造業において付加価値に直結する最も大切なものをテーマに選んだ。設計者にとっては、設計力とはまさに「魂」だ。筆者もデンソーで長年鍛えられた元設計者として、小細工などなしに、ど真ん中に直球を投げ込んでみたい。

 筆者は2009年に設計力に関する書籍を上梓し、その重要性を世に問うた。不思議なことに、「現場力」という言葉はメディアなどで頻繁に取り上げられる一方で、「設計力」という言葉については、当時ほとんど目にすることはなかった。それからしばらく時が経ち、最近はようやくこの「設計力」という言葉も徐々に浸透してきた。“市民権”を得たようで心強い。

 だが、世間がいう設計力と、私がいうところのそれとは「同床異夢」の感がある。世間が考える設計力は、設計に関して優れていることや強さを漠然とイメージしたものだろう。だが、私がこのコラムで俎上に載せる「設計力」には、明確な定義がある。こうだ。

「設計力とは、お客様からのニーズを、ものという形に具現化できる情報に置き換える活動、および、その活動をやりきる力のこと」──。

 この定義に基づき、「設計力」について旬の話題を絡ませながらお伝えしていく。

 最近、自動車に関して大きな品質不具合が続いている。このコラムの執筆に取りかかったまさにその日に、リコール1億台との記事が目に飛びこんできた。タカタ製エアバッグのリコールの対象が、それまでの約6000万台から1億台超に拡大する見通しとなったことを伝えるニュースである。そして、その後は三菱自動車やスズキによる燃費に関する不正が発覚し、連日大きく報道されている。

 今日の科学技術は相当に進歩した。地球からはるか遠くにあるごく小さな惑星から岩石を持ち帰れるほどだ。そのため、「工業製品程度のものなら、もはや造れないものなどない」と皆は考えるかもしれない。だが、現実はそうではない。製造業のものづくりでは、経営資源に限りがあるからだ。人・もの・金をふんだんに投入し、かつ、時間をたっぷりかけるというわけにはいかない。世界中で競合企業がひしめく自動車業界では、特に制約が厳しい。経営資源は必要最小限であり、限られた時間の中での活動となる。この制約を乗り越えられないと、その軋み(きし)は品質に表れる。