記事一覧

アフター2020、未来からの逆算

日本代表クラスのITラグビー 草の根に、慶應と港北区の挑戦

スポーツデータサイエンス、小学生が体験で得たもの

2017/07/26 05:00

高橋 史忠

GPSデバイスを着用し、タッチラグビーの試合中の動きを計測した

世界にどうやって勝つか?

「今回、皆さんと一緒に取り組んだ成果は、日本代表や慶應でも生かしていきたいと思います」

ワークショップは、児童たちの活発なアイデアで盛り上がった

 慶應義塾大学 蹴球部(ラグビー部)S&C(ストレングス&コンディショニング)ディレクターの太田千尋氏は、小学5年生の“アスリート”たちを前に、こう総括した。

 同大学の大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科とラグビー部は2017年6月26日、同29日、同7月3日の3日間、横浜市立日吉台小学校の5年生の児童を対象に「スポーツデータサイエンス授業」を開催した。太田氏の総括は、授業を終えるに当たって児童たちに話した言葉だ。

 今回の授業では、ラグビー日本代表でもS&Cコーチを務める太田氏に加え、慶應義塾大学ラグビー部の部員が児童たちの指導に当たった。様々な競技でトップクラスのコーチやアスリートが小学生をコーチングするスポーツ教室はよくあること。今回の授業には、他とは違う特徴がある。それは、授業の名称にもある「スポーツデータサイエンス」だ。

 トップアスリートが取り入れているIT(情報技術)を用いた先端のスポーツデータ活用を小学生が体験した。具体的には、GPSデバイスやドローンを使ったプレー中の動きのトラッキングである。37人の児童たちを3つのチームに分け、タッチラグビー(コンタクトプレーのないラグビー)の試合中の動きを計測する。グラウンドでの試合前後には、簡易のワークショップを開催。学生アスリートがチームに入り、児童たちの意見を引き出しながら一緒に戦術を練った。

グラウンド上空では、ドローンがプレーを撮影

「例えば、自分がどれだけ速く走れるか。ラグビーのような競技でルールがある中で走る場合、普通に走る時ほど速くは走れません。ルールの中で、自分の力を最大限に発揮できる状況をどうやって作るか。それは、体の小さな日本の選手が世界に勝つためのカギになる。データで可視化し、戦術を練ることがパフォーマンスの向上につながる。子供たちに『世界にどうやって勝つか』という課題を与えて考えてもらいます」

 太田氏は授業の狙いをこう話す。グラウンドでの実技の後には、計測データを児童たちに提示し、3日間の授業で試合中の動きがどれだけ改善したかを可視化して見せた。

スポーツデータを行動変容につなげる

 スポーツデータサイエンス授業は、慶應義塾大学SDM研究科と日吉台小学校がある横浜市港北区が2017年6月に結んだ連携協定の一環だ。日吉台小学校を対象にした今回の授業は、その第一弾の取り組みである。

 連携協定では、「スポーツを通じたデータ活用推進教育研究」を取り組みの1つとして掲げている。港北区民が、自分が行ったスポーツに関するデータ(スポーツデータ)を収集・分析・考察する力を養うと共に、スポーツデータに関するオープンデータ推進のための研究を進めることが狙いだ。

 小学生対象の授業のほか、同区内に在住する家族を対象にしたスポーツデータサイエンスの公開セミナーや、高校生以上を対象にしたスポーツデータ活用のアイデア創出ワークショップを実施する。「様々な形で対象者のスポーツデータを計測、パフォーマンスを考察し、区民の行動変容につなげていきたい」と、今回の授業を主導したSDM研究科の神武直彦准教授は語る。

日経テクノロジーオンラインSpecial