米アンダーアーマーの日本総代理店であるドーム 取締役の三沢英生氏が語るスポーツ産業化への道の第3回。強烈なキャラクター、大胆な物言い、緻密な戦略、日本スポーツ界の旧体質への怒り…これらが一体となって“激アツ”な言葉を放つ。どうやら三沢氏の改革へのエネルギーは無尽蔵のようだ。今回のテーマは日本のスポーツビジネス改革の本丸といわれる「スタジアム・アリーナ改革」だ。

最高のカスタマー・エクスペリエンスを提供

 2017年6月21日、天皇杯全日本サッカー選手権大会の2回戦で、福島県リーグ1部のいわきFCがJ1のコンサドーレ札幌に5-2で勝利しました。J1から数えると“7部リーグ”に所属するチームによるジャイアントキリング(大番狂わせ)です。3回戦では惜しくも同じJ1の清水エスパルスに0‐2で敗れましたが、リスクを恐れることなく勇気を持って立ち向かっていった姿には感動しました。敵地の観衆さえ試合終了後に温かい拍手を送っていたことが、その戦う姿勢のすさまじさを物語っていたと思います。

 いわきFCは、ドームが設立した「いわきスポーツクラブ」が運営するサッカークラブで、「いわき市を東北一の都市にする」という理念を掲げています。チームが理念に向かって一致団結し、切磋琢磨することで魅力あふれる強力なチームになるのです。前回述べさせてもらいましたが、すべての行動、活動はこの理念に紐づきます。いわきFCがどういう道筋でJ1まで駆け上がるかは分かりませんが、クラブの目標は「J1優勝」ではありません。「世界基準(グローバルスタンダード)のサッカークラブにする」ことです。「100億円クラブ」を目指して地域創生につなげ、いわき市を東北一の都市にします。また将来を担う子供たちへのスポーツを通した教育を行っていきます。

 クラブ設立のきっかけには、福島の復興がありました。単に「J1で勝利する」ということだけを考えているわけではありません。「サッカークラブを核に、どのように街を作っていくか」。そこまで考えて、プロジェクトに取り組んでいます。その第一歩として、ドームの物流センターに隣接して専用グラウンドを造り、2017年6月にはグラウンドに直結し、商業施設を併設したクラブハウスをオープン。この一帯を「いわきFCパーク」と名付けました。

 クラブハウスは選手の活動の拠点であると同時に、アンダーアーマーのアウトレットショップや飲食店、車のディーラー、英会話教室などを備え、練習を見学しながら食事やショッピングを楽しめる施設です。地域活性化につながる観光や交流の拠点となることを目指しています。つまり、単なるサッカーチームのための施設ではなく、地域に新たな非日常空間を生み出し、最高のカスタマー・エクスペリエンス(顧客体験)を提供する「スポーツパーク」なのです。

 スポーツ施設できちんと収益を上げ、それを地元に再投資していく。いずれは、いわき市にサッカー専用スタジアムを建設し、大勢の熱烈なファンを呼び込み、スタジアムを中心に飲食、観光、交通、建築、メディアといった付帯産業も発展させ、地域創生につなげていきたいと考えています。

ドームの三沢英生氏(写真:ドーム)
ドームの三沢英生氏(写真:ドーム)

 「スタジアム・アリーナ改革」は、日本のスポーツビジネスの大きな課題の1つです。そこで一番大事なことは、最高のカスタマー・エクスペリエンスを提供することです。

 ドーム 代表取締役の安田秀一がテーピングビジネスを創業後に定義したドームの在り方は、「スポーツ・ソリューション・プロバイダー」、つまり顧客の悩みを解決する会社です。つまり、「アスリートの悩みを解決する」ということがドームのレゾンデートル(存在価値)であり、成長の源泉であるというわけです。

 アスリートの悩みを解決することを追求していくと、「スタジアムやアリーナをどうにかしなければならない」ということに行き着きます。

 例えば、競技を続けるための資金調達は、アスリートの大きな悩みの1つです。お金がなければ、競技者であり続けられません。ここで、世の中で誤った発想で使われる言葉があります。「アスリート・ファースト」です。スタジアムやアリーナで言えば、アスリートの競技環境を良くするためという名目でグランドや選手が使うシャワールームやロッカールームをやたらと豪華にする。その一方で、観戦に来るファンは置いてきぼりになるということが起こりがちです。スタジアムに観戦に来ても楽しくないから二度と来ない、という現実があるわけです。