リスクだらけの大学スポーツ

 しかし、大学スポーツ改革はここまで述べてきたチームビルディング、すなわちボトムアップ型の改革だけでは実現できません。ドームでは「AIP(アカデミック・インフラストラクチャー・プロジェクト)」と呼ぶ大学学長主導によるトップダウン型の改革プロジェクトを推進しており、これまでに関東学院大学、筑波大学、近畿大学などとAIPに関するパートナーシップを結びました(ドームは大学だけではなく、延岡学園、小松大谷、福岡工大城東、開志国際といった高校ともAIPを推進しています)。

ドームとAIPで提携した筑波大学は、運動部のユニフォームの色を統一。大学スポーツのブランディングの取り組みを始めた。2017年8月1日に同大学はアスレチックデパートメント(AD)設置準備室を設置。ドームの安田秀一代表取締役が客員教授に就いた(写真:ドーム)
ドームとAIPで提携した筑波大学は、運動部のユニフォームの色を統一。大学スポーツのブランディングの取り組みを始めた。2017年8月1日に同大学はアスレチックデパートメント(AD)設置準備室を設置。ドームの安田秀一代表取締役が客員教授に就いた(写真:ドーム)

 AIPでは、ドームの「スポーツを通じて社会を豊かにする」という企業理念に共感する学校と組み、スポーツを軸にグローバルスタンダードの学校をつくることを目指しています。学校の部活やスポーツ施設、大会運営などスポーツ教育の現場を産業化し、生まれた資金を研究開発などのアカデミックな分野を含めた教育環境改善のために再投資する。これによって、日本の教育環境を改善していくプロジェクトです。(1)サプライヤー契約、(2)マーケティング協業、(3)アスレチックデパートメント(AD)設置による大学組織改革、について段階的に取り組んでいます。

 日本の部活動は、ここまで議論してきた「プラス」となる取り組みをする以前に、「マイナス」を「ゼロ」にすることが最優先です。つまり「ガバナンス」と「リスクマネジメント」。そもそも部活動なるものは任意団体で、ブラックな部分も多く、リスクはたくさんある。大学に人事権がないから、監督はやりたい放題な面もあります。運動部は大学とは別会計ですから、大学側はお金の流れをつかめていません。任意団体だから銀行口座も作れません。税金も払わないし、納付の義務もない。そして、リスクが実際に起きた際には責任の取りようがない。

 考えてみれば無茶苦茶なんです。大事な子どもたちが活動しているのに、近所の草野球やママさんバレーのチームと同じようなガバナンス、リスクマネジメントになっています。「大学スポーツ改革」とひと言で済ませることは簡単ですが、具現化するためにはこうしたところから変革を進めていかないと成功しません。

 例えば、アメリカンフットボールで「死んでもいいから優勝したい!」などとかつては言われていましたが、死んでいいわけがないのです。アメフトに限らず、大学スポーツは教育の一環なのだから、重篤な事故を起こしてはいけません。

 スポーツを通じて人間的に成長して、大学の4年間よりもはるかに長い将来につなげていく。このことが第一義であるのは当然の話でしょう。安全が絶対条件なのに、その管理が行き届いていないのが現状です。

 また、部員が何らかの事件を起こした際に、日本ではチームに連帯責任が問われます。これも変な話です。事件を起こしてしまった部員はともかく、どういう根拠で連帯責任なのでしょう? ほとんどの部員はひたむきに練習を続けてきたのに、ほんの一握りが事件を起こしただけで、いきなり甲子園に出場できませんということになったり、急に監督が責任を負わされたり…。こうした罰には、何の根拠もないはずです。この国の子どもたちを囲む環境は一体どうなっているんでしょうか。矛盾と不明瞭だらけです。

 米国では全米大学体育協会(NCAA)がガバナンスをきかせ、ルールを定めることでリスクマネジメントを図っている。このような仕組みの無い日本では残念ながら、何か問題が生じたときに教会や連盟、学校が場当たり的な処分を科したり、チームが反射的に活動を自粛したりと、その場しのぎの対応に終始しています。指導者の皆さんにしても放課後はもちろん、土日・祝日と指導に明け暮れる一方で、選手の不測の事故や違法行為の責任を問われ、かといって妥当な報酬も得られずボランティアに過ぎないとなっては、あまりにもかわいそうです。