米アンダーアーマー社の日本総代理店のドーム(東京・江東区)を率いる安田秀一氏(取締役会長兼代表取締役CEO)の歯に衣着せぬ言葉は、硬直する日本社会の課題を明確に指摘している。アメリカンフットボール(アメフト)のコーチを務めた経験もある安田氏の的確で時に刺激的な言葉は、日本のスポーツビジネスの未来にとっては必要不可欠なものだろう。

 今回は前回に引き続き、安田氏が語る学生スポーツの課題とその解決の方向性をお届けする*1。ドームは2016年4月に関東学院大学とブランド戦略を担うパートナーシップ契約を締結した。「アカデミック・インフラストラクチャープロジェクト(AIP)」と呼ぶプロジェクトの第1弾だ。

 地域密着型の学生スポーツを盛り上げることは、地域創成という日本の社会的課題を解決する方法論の一つであると同時に、女性活躍をはじめとするダイバーシティー(多様性)の社会的コンセンサスを広げる機会にもなり得ると安田CEOは見ている。スポーツ用品にとどまらない展開を見せるドームが描く「未来予想図」を同氏に聞いてみた。(聞き手は、上野直彦=スポーツライター)

ドーム 代表取締役 CEOの安田 秀一氏。(写真:加藤 康)
ドーム 代表取締役 CEOの安田 秀一氏。(写真:加藤 康)
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日本の学校スポーツが抱える三つのリスク

―― 日本では学校スポーツがスポーツ選手の育成で大きなシェアを握っています。先ほど活動資金やガバナンスといった学生スポーツの課題についてうかがいましたが、そのほかにはどういった問題があるでしょうか。

安田 日本の学校スポーツを考えると、三つのリスクがあります。

 まず、先ほど説明した部費をはじめとするチームの活動資金の不透明性です。例えば、ラグビーの早明戦や、野球の早慶戦は税務調査が入ると聞きます。多くの観客を集めて大きな収益があるからでしょう。やはり透明性は必要なのだと思います。

 個々の選手が部費を払うというシステムが変えられないなら、最低でもすべての部活動の部費を学校が代表して集めて、学校の入金として学校から費用が全部出る形にした方がいいでしょう。そうすれば、学校が税務上の処理をまとめてできるようになるはずです。

 第2のリスクは「ヘルスリスク」です。練習や試合でのケガ・事故の責任を誰が取るのか。日本だとチームを率いる監督の責任になってしまうことがほとんどですよね。監督として給料を1億円もらっているならまだいいですが、多くの学校スポーツで監督さんたちは安月給で頑張っています。それで責任を取れるわけがない。

 米国の場合、「事故の場合も監督の責任を追求しない」という合意書を最初に選手と交わします。これは責任逃れということではなく、社会的なコンセンサスでもあります。ところが日本は社会通念ですべてを監督のせいにしてしまう傾向がある。