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ジン・コンサルティング 代表、生産技術コンサルタント西村 仁氏
ジン・コンサルティング 代表、生産技術コンサルタント西村 仁氏
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 機械加工の中で代表的な切削加工は、削ることで形を作る加工です。これには丸形状に加工する旋盤加工や角形状に加工するフライス加工、そして穴開け加工があります。工具の形状がそのまま工作物(ワーク)に乗り移ることが特徴です。今回はここに焦点を当てたいと思います。

 段付き部品を考えてみましょう。段付きとは直径が異なって段が付いた形状を言います。例えば、丸棒において長さの半分が直径Φ20mmで、残りの半分が直径Φ10mmの段付き形状を作りたいとします。この加工にはΦ20mmのミガキ材を購入し、旋盤を使って先端から長さ半分をΦ10mmに削ります。このときΦ20mmとΦ10mmの段差部には工具であるバイトの刃先形状がそのまま乗り移ります。

 バイトの一般的な市販品は、刃先の半径R(ノーズ半径やコーナー半径と呼ぶ)が0.2mm、0.4mm、0.8mm、1.2mm、1.6mmと0.4mm以上は0.4mm刻みになっています。よく使われる半径Rは0.4mmと0.8mmです。このとき図面に段差部のコーナー半径を「R0.5mm」と指示するとどうなるでしょうか。刃先半径R0.5mmのバイトは市販されていないので、対応が難しくなります。では図面は市販寸法のR0.4mmとすべきでしょうか。これもお勧めしません。加工現場では加工精度や表面粗さ、切り込み量などによってその都度最適な刃先半径Rを選定しているためです。

 そこで図面のコーナー半径をピンポイントで指示するのではなく、その選択肢を広げます。先ほどの図面例では「R0.5mm」ではなく、数値に“以下”を付けて「R0.5mm以下」とすることで、選択肢は半径0から0.5mmまで広がります。

 角形状に加工するフライス盤に使用する工具のエンドミルも同じように、加工したコーナーにはエンドミル先端の刃先半径Rが乗り移ります。そのため、図面のコーナー半径R寸法にも数値に「以下」を付けることをお勧めします。

 工具の最適化(工具材料や刃先半径など)や加工条件(回転数や切り込み量、送り速度など)は高度な技術なので加工者に任せますが、最適化するための範囲をできる限り広げる工夫は設計者の責務です。今回の刃先半径Rだけではなく、寸法公差指示や表面粗さ指示も設計品質を確保することを前提に、できる限り範囲を広げて図面指示を行います。これにより加工が容易となり、短時間で加工できる上に、製造原価の削減につながります。だからこそ、設計者にも機械加工の基礎知識が必要なのです。

 余談ですが、大きな力が加わる場合にはコーナー半径Rは大きく取ります。丸形状や角形状に関わらずR寸法が小さいと応力が集中することで亀裂が入り破損につながるからです。

 いよいよ今年も残りわずかになりました。皆さん、よいお年をお迎えください。