ジン・コンサルティング 代表、生産技術コンサルタント西村 仁氏
ジン・コンサルティング 代表、生産技術コンサルタント西村 仁氏
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 製図ルールには日本工業規格である「JIS規格」だけではなく、「オリジナルルール」もある──。若手社員向けの「図面の読み方」の研修で私がこう説明すると、彼らから驚かれることがあります。オリジナルルールとは、個々の企業が設けた独自規格のこと。もちろん、基本はJIS規格です。JIS規格に則(のっと)った上で、一部に独自規格を使う図面が存在するのです。このオリジナルルールは、「設計の意図を読み手に伝える上で有効な場合」に使用されます。実は、多くの企業がオリジナルルールを採用しています。

 オリジナルルールには大きく2種類があります。1つは、各企業が完全に独自に作った規格で、他者には全く伝わらないもの。もう1つは、旧JIS規格をそのまま使うものです。JIS規格は不定期に改訂が行われています。改訂された新JIS規格よりも旧JIS規格に優位性を見いだす企業が、そのまま旧JIS規格を採用するようです。本来は通用しない過去の規格を使うのですから、こちらもオリジナルルールの一種と言えます。

 具体的な事例を紹介しましょう。まず、尺度の表示です。尺度とは現物に対してどの比率で表すかを示したもの。原則は、現物と同寸法で表す「現尺」を使うことです。ただし、場合によっては拡大して表現する「倍尺」や、縮小して描く「縮尺」を使用します。この尺度は図面右下の表題欄に記載し、尺度表示には「:(コロン)」を使うことがJIS規格で決まっています。例えば、現尺なら「1:1」、2倍の倍尺なら「2:1」、1/5の縮尺なら「1:5」と表示するのです。

 しかし実務では、多くの企業が分数表示の「/(スラッシュ)」を使っています。表示の仕方は「1/1」「2/1」「1/5」といった具合です。実は、この「/」は旧JIS規格です。なぜ旧JIS規格を使い続けるのか。その理由は「分かりやすさ」にあります。