ジン・コンサルティング 代表、生産技術コンサルタント西村 仁氏
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ジン・コンサルティング 代表、生産技術コンサルタント西村 仁氏
 機械設計や製品設計の手段は、この20年ほどで手描きの「ドラフター」からデジタルのCADに大きく変換しました。では、全ての面でCADが優れているのか。いいえ、CADには弱点があります。その1つが設計者に大切な「肌感覚」(直感)です。この肌感覚を養うには、手描きのドラフターの方が効果的なことを前回のコラムで紹介しました。そして、CADにはもう1つの弱点があります。それは、共有する情報量の差。今回はこの情報量について取り上げましょう。

 ドラフターとは製図板のこと。両手を広げた大きさがあり、これにA1判の方眼紙を貼り付けて、手描きで製図を行います。鉛筆書きなので、修正があれば消しゴムで消しますし、夏場には手の汗で紙が“ワカメ”状になるといった苦労もあります。しかし、ドラフターならではの大きな利点がありました。それは、情報を共有できることです。

 ドラフターは、自分の机の隣や対面に置くものです。そのため、ドラフターに貼り付けた図面は誰でも簡単に見ることができます。これが最も大切な点です。新入社員や若手社員が、先輩や上司の設計作業を目の前で観察することができるからです。描く手順や、描く速さ、機構などをどのように考えたかも知ることができます。“師匠”の作業を目の前で見ることができる。これは最高の教材です。

 一方、先輩や上司は、机から顔を上げれば、新入社員や若手社員のドラフターが見えます。そのため、図面の品質や進捗はもちろん、手が止まっていればどの部分で悩んでいるのかも一目瞭然です。これをチラ見しながら良いタイミングでヒントを与えたり、アドバイスを行なったりできるのです。これは、まさに理想のOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)。不具合点を適宜うまく軌道修正していくので、設計品質を高めながら、日程の遅れも防ぐことができました。まさに“一石三鳥”です。