先輩や上司から図面が見えない

 ではCADではどうでしょうか。CADはハード面のサイズに制約があるので、机から離れた場所や、ときにはCAD室といった別室に設置されます。従って、第三者がディスプレー上の設計図面を見る機会は極端に減ってしまいます。

 加えて、ディスプレーは構造上斜めの角度からは見にくいので、見ようとすると設計者の真後ろに立たざるを得ません。これではまるで“背後霊”のようになってしまい、設計者からも嫌われることにもなります。仮に見えたとしても、CADは簡単に拡大や縮小ができるので、ディスプレーに映っている図が全体のどの部分を表示しているのかが分かりません。

 こうした理由から、師匠となるはずの先輩や上司と若手社員とが図面を通して触れ合う機会が減り、ヒントもアドバイスも少なくなりました。ドラフター時代に互いが知り得る情報量と比べて、何十分の一といったレベルまで激減していると思います。

 ドラフターの時代には、方眼紙に描かれた図面の前で侃々諤々(かんかんがくがく)の議論を行うことは普通のことでした。でも、CADの時代になってからはそうした姿を見ることはほとんどなくなりました。誰も話すことなく黙々と入力している風景だけが広がっています。

 今回のコラムで私が伝えたかったのは、「昔のドラフターは良かったから、CADではなく、またドラフターを使おう」ということではありません。圧倒的な「製図効率」を備えたCADというツールをうまく活用しながら、CADの弱点である「設計効率」を強く意識し、どのようにカバーしていくかを考えてほしいということです。皆さんはCADのこの弱点にどのように対応しますか。

図●MUTOHホールディングスの「MUTOHドラフター」
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図●MUTOHホールディングスの「MUTOHドラフター」
「ドラフター」という言葉は、手書き製図機械の総評として普及しているが、実はMUTOHホールディングスの登録商標。今、教育現場、特に大学においてドラフター回帰現象が見られるという。写真提供は武藤工業。