國井 良昌=國井技術士設計事務所 所長
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國井 良昌=國井技術士設計事務所 所長
 次のような質問が私の事務所に寄せられました

【質問10】
 当社では係長、課長、部長と役職ごとに昇格試験があります。試験は、技術論文と技術プレゼンテーションと面接があります。どの役職も合格までの道のりはいばらの道です。先日、試験官を務める上司に「最近の論文はタイトルも中味もほとんど変わらず、読んでいると飽きてくる」と皮肉られました。目立ちたいわけではありませんが、やはり、突出した論文やプレゼン用のパワーポイントを作成したいと思います。そのコツがあったら教えてください。

 この質問に対する私の回答はこうです。

【回答10】
 書籍も映画もテレビ番組も、とっくに「タイトルで決まる時代」になっていますね。このことは、質問していただいた社内昇格試験の論文のタイトルだけではなく、研究論文や各社と競う企画書タイトルにも当てはまります。「タイトルなんて、どうでもいい」とか、「自分は内容で勝負だ」などと息巻いているようでは、時代遅れ思われてしまうかもしれません。「ここ一番で勝負!」というときの、タイトルをつけるコツを教えましょう。

 街に出ると、とても美しいルックスやスタイルで決めた女性のポスターが目に付きます。そのポスターに載せる写真は、500枚以上の中から数人の関係者が選んだ1枚とも言われています。また、有名なコピーライターである糸井重里氏のCM用キャッチコピーは、数百以上のアイデアから選択されると聞いています。その道のプロが生みの苦しみを経ているのに、私たち技術者が論文や技術企画書などのタイトルを安易につけていてよいのでしょうか。プロの努力を超える必要はないと思いますが、ここぞというときは、せめて彼らの1/10くらいの努力をしてもよいのではないでしょうか。 

技術者なら簡易QFDに挑戦

 では、タイトルをつけることにあまり慣れていない技術者は、どのようにしたらよいでしょうか。簡単です。素手で戦えない者は、武器(道具)を持てばよい。その道具とは、「簡易QFD(品質機能展開)」です。図1は、筆者が推奨するQFDの簡易バージョンです。筆者のクライアント企業で「品質向上のポスターのタイトル」を会議で決める時に使用しました。筆者は設計職人なので、複雑なQFDが苦手です。従って、企業のコンサルテーションでもこの簡易QFDを推進しています。

図1●簡易QFDによるポスタータイトルの決定
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図1●簡易QFDによるポスタータイトルの決定

 図1が見づらい場合や、筆者と同じく複雑なQFDが苦手な技術者は、次に示すURLにアクセスして、簡易QFDのソフトをダウンロードしてください。そして「レッツ、トライ!」

【URL】http://a-design-office.com/somesoft.html
【ソフト名】No.33:日経BPセミナー&コラム
【パスワード】bp_nik_mbclk

 簡易QFDなのですぐに使えると思いますが、少しだけ説明しましょう。

【簡易QFD作成の手順】
[1]縦欄(タイトル要求項目):ポスターのタイトルを決定付けるための指標。例えば、一般企業における業務査定の評価項目に相当する。指標の数量よりも、数量限定の有意義な指標が優先される。

[2]横欄(タイトル候補):メンバーから最適と思われるタイトルのアイデアを募る。ただし、一番左(の列=No.1)にはダミーのタイトルを置く。図1では「家電品並みの品質を目指そう!」をダミーとした。

[3]ダミーは「オール3」:前述のダミーの欄における関連評価は、事務的に「オール3」を付けておく。

[4]関連評価(1):タイトルNo.2からNo.5まで、横欄のタイトル候補と縦欄のタイトル要求項目の関連(相関関係)を評価する。評価点は1〜5まであり、数値が大きいほど関連性(相関)が強い。

[5]関連評価(2):各タイトル要求項目に関する評価の仕方は、前述の[3]で解説したダミーより「上」と判断した場合は「4」もしくは「5」を選択する。「下」と判断した場合は、「2」もしくは「1」を選択する。同等であれば「3」を選択する。

[6]関連評価(3):メンバーの1人ひとりが、次から次に評価を実行していく。このとき、1つの評価に疑問があれば、即、「異議あり!」と発言し、メンバー全員の共有が得られるまで議論する。

[7]見直しと修正:全ての評価が終了したら、メンバー全員でもう1度各評価を見直し、必要であれば修正する。 

[8]タイトルの決定:Excelに仕込まれたソフトウエアにより、最下段にタイトルのランキングが1〜5位まで表示される。1位のタイトルを採用することが望ましいが、場合によっては2位を選択する場合もあり得る。いずれも、メンバー全員のコンセンサス(本コラムの第4回を復習のこと)を得る必要がある。

[9]要求項目の確認:Excelに仕込まれたソフトウエアにより、最右欄にタイトルを決定付けた要求項目のランキングが1〜5位まで表示される。1位〜3位くらいまでは確認しておきたい。

 ある大手新聞社に勤務する記者がこう言っていました。「新聞社の入社試験の論文で、タイトルに『人間性に関して』や『環境保護に関して』など、無味乾燥で魅力のないタイトルがついた論文は、中身も無味乾燥で魅力のない内容だ」と。しかも、その確率は80%以上とのことです。一方、ある有名なコピーライターはこう語っています。「新聞広告やテレビのCM、電車の車内広告は、『読むタイトルから見るタイトル』の時代に移行して久しい」と。