國井 良昌=國井技術士設計事務所 所長
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國井 良昌=國井技術士設計事務所 所長
 次のような質問が私の事務所に寄せられました。

【質問9】
 先日、弊社でワークショップが行われました。相手企業はドイツ企業と日本の協力企業です。帰国後、ドイツ人技術者から依頼を受けました。私のパワーポイントから全ての「矢印」を削除し、文書化してほしいというのです。理由を尋ねると、ドイツの仲間に報告できないほど意味不明の「矢印」が氾濫しており、まるで暗号のようだったからとのこと。でも、協力企業からはそうした声は皆無でした。一体、何のためのワークショップだったのか悩んでいます。何がいけなかったのでしょうか。

 この質問に対する私の回答はこうです。

【回答9】
 「ああ、やっぱり!」と思わず声を上げてしまいました。実は、似たような質問を数多く私は受けています。この質問に対する答えは簡単です。矢印の使い方がまずいのです。私はこの手の矢印を「QC矢印」と呼んでいます。実はこのQC矢印が、外国人技術者を大いに悩ませているのです。

 一方で、設計コンサルタントとして私が非常に心配しているのが、日本の協力企業の姿勢です。質問が皆無って考えられますか? 無関心ということでしょうか。あうんの呼吸で理解しているならばよいのですが、第7回で掲載した「2-6-2の法則」の下位層を思い出し、日本の将来を心配してしまいます。

外国人技術者を悩ませるQC矢印

 外国人技術者を非常に困惑させる、典型的な日本人の技術資料があります。それは、矢印を多用した資料です。図1を見てください。これは、ある大手精密機械企業の「新人事制度」を説明する図です。この企業の人事部の社員が作成しました。

 皆さんは、まずどこに視線を向けますか。あれ? どこから見始めてよいか分かりませんね。スタート位置が不明です。では、その点を置いておくとして、全部、いや一部でも構いません。「解読」できるでしょうか。できないと思います。

図1●QC矢印の多い大手企業の新人事制度説明図
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図1●QC矢印の多い大手企業の新人事制度説明図

 この資料は、他人には理解できない「自己満足の資料」です。従って、職場の仲間に伝えることも、議論もできません。この原因は、図中における矢印の多用にあります。これらの矢印を、私の事務所のコンサルタント仲間は「QC矢印」と呼んでいます。「カビの生えたQC矢印」と言う辛口の人もいるほどです。

QC矢印の使用禁止!

 かつて「QC手法」が全盛だった時代に、「ボトムアップ」という単語が出現しました。企業の活性化のためにはボトム層、つまり、一般社員が士気を高める必要があるというのです。最近は、TQM(Total Quality Management、総合的品質管理)と呼ばれていますが、言葉の定義に厳しい方々からの非難を覚悟しつつ、本コラムではQC手法と呼ばせてもらいます。

 話を元に戻すと、QC手法では前述のボトム層、つまり、一般社員の士気を高めるために「QCサークル」が発足しました。職場単位のサークル活動です。目的は、作業改善一筋。さらに一層の活性化手段として、「QCサークル発表会」が企業大会や県大会、全国大会へと発展していきました。そして、これらのプレゼンテーションに使用されたのが、文章や接続詞を排除した「QC矢印」だったのです。言うまでもなく、日本独特の矢印です。

 初めは簡潔だと評判でしたが、しばらくすると勝手な使い方が増えていきました。いわゆる「理解しにくい方言」へと変化したのです。これが国内から海外に伝わり、今では「外国人技術者が悩む、日本人が多用するQC矢印」とまで、コンサルタントの仲間内で言われています。

 では、外国人がどのように悩んでいるのか体験してみましょう。