コミュニケーションに始まり、終わる

 まずは、図1を見てください。入社式で社長から頂いた訓示は、図の左側に示したようなもの、もしくはそれに近いものだったのではありませんか。また、皆さんもそれに沿って大きな志を描いたことでしょう。

 しかし、現在は若干異なっています。重要なのは図の右側なのです。注目すべきは、技術者の初めと終わりに位置するのが「コミュニケーション能力」であることです。技術者にとって必要なことの頂点に位置するのは、技術ではなくコミュニケーション能力であるということを肝に命じてください。

図1●技術者における頂点はコミュニケーション能力
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図1●技術者における頂点はコミュニケーション能力

 では、なぜでしょうか? その理由は簡単です。例えば、最近のノーベル賞受賞者を思い浮かべてください。かつてのノーベル賞は、1人の功績を称え、1人で受賞することが多かった。ところが、最近の受賞はチームワークによる功績で受賞するのです。2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した京都大学教授の山中伸弥氏は受賞式の際に、壇上のスクリーンいっぱいに研究チームの顔写真を紹介していました。

 また、かつてソニーでペット型ロボット「AIBO」の開発リーダーを務めた大槻正氏や、世界的な企業の創業者であるビル・ゲイツ氏やスティーブ・ジョブズ氏といった人たちも、優秀で熱意のあるチームを結成していたと聞きます。これらのチームを結成した彼らのコミュニケーション能力が優れていたことは想像に難くありません。もしこの能力が欠落していたら、彼らの下に優秀な技術者は集結しなかったでしょう。無口で無表情のリーダーの下には誰もやって来ないのです。

 極論を言えば、優秀な人材が集まらない場合に「金」で釣るという手もあるでしょう。しかし、人と人との結びつきがない金銭だけで集められたチームが、果たして良い成果を出すことができるでしょうか?

 新入社員の場合、コミュニケーション能力が欠落していると、先に述べた「まずは技術よりも、複雑化した環境と人に慣れること」が実行できません。これを怠ると精神的に追い込まれ、夢見る技術者どころか社会から孤立することになるかもしれないのです。

 指導者(上司)は新入社員の即戦力化ではなく、精神的なケアに注意を払ってほしいと思います。即戦力や技術力はその後で自然と付いてきます。焦る必要はありません。