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「新しくパン屋やクリーニング店、歯科医院を開くのと、全く新しい商品を開発するベンチャー企業を立ち上げるのとどちらがリスキーか?」

 日本人の多くは、ベンチャーの方がリスクは大きい、と答えるのではないだろうか。私が教鞭を執っている学習院大学の学生に対して、同じ質問を投げかけたところ、学生の多くがそう答えた。人々がパンやクリーニング、そして歯の治療を求めているのは明らかな一方で、ベンチャーが開発した新しい製品への需要ははっきりとはわからない、というのがその理由だ。

 詳細は後述するが、これは大きな誤解である。私はこれまで、米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)でコンピュータサイエンスと電気工学を学んだ後、シリコンバレーで自らベンチャーを立ち上げ、日本の大手企業とも協業したこともある。2004年に来日し、ベンチャーの日米比較を研究テーマにして学習院大学経済学部の教授を務めている。

 こうした経験を通じて実感したのは、米国と日本で、ベンチャーに対する考え方が大きく異なることだ。日本では特に、ベンチャーはリスクが大きいという固定観念がある。本連載を通じて、この誤解を解き、起業することやベンチャーに勤めること、ベンチャーに投資すること、そして大手企業がベンチャーと協業することを促したいと思っている。もちろん、起業にはリスクが伴う。だが、そのリスクを最小化したり、避けたりする手段はある。本連載では、米国シリコンバレーと日本を比較しながら、シリコンバレーを例にして、その手段を紹介したい。

 第1回目のテーマとして、起業における金銭面のリスクを投資家と起業家がどう負担し合うべきか、ということを前後編2回にわたり考察する。