鮫島正洋=内田・鮫島法律事務所 代表パートナー 弁護士・弁理士
[画像のクリックで拡大表示]
鮫島正洋=内田・鮫島法律事務所 代表パートナー 弁護士・弁理士
 拙著『知財戦略のススメ』(日経BP社)では、第1章において「技術のコモディティ化」という概念を媒介としてこう述べました。技術がコモディティ化する前は技術的付加価値(製品の機能の高度性)で競争力を得ることが可能である。だが、技術がコモディティ化してしまうと技術的付加価値は競争力に結び付きにくくなる──と。

 このことから「技術のコモディティ化」を、「世の中の求める性能を具備する製品について、特許フリーな技術(満了特許にかかる技術)のみによって生産することができる状態」と定義しました。

 では、技術がコモディティ化した後に、どのような付加価値で競争力を確保すべきなのでしょうか。付加価値を「技術的付加価値」「非技術的付加価値」「価格」の3つに分類して3軸チャートを描いてみました()。

図●付加価値の3軸チャート
[画像のクリックで拡大表示]
図●付加価値の3軸チャート
付加価値を「技術的付加価値」「非技術的付加価値」「価格」の3つに分類して描いた。

 「技術的付加価値」とは、製品の機能・性能などに代表される技術的側面からの付加価値のことです。製品が市場(マーケット)に投入されてからある時期までは、製品の性能が世の中の求める性能に追いつかないことが普通です。

 最近であれば、デジタルカメラが登場した1990年代後半は画素数が十分ではなく、銀塩フィルムカメラに比べて粗い画像しか撮影できませんでした。このような状況下では、世の中の求める性能(例:銀塩フィルムカメラの画質に匹敵する400万画素)を実装したデジタルカメラをいち早く市場投入すれば、「価格」が多少高くてもマーケットシェアを確保することができます。そして、400万画素を具備するデジタルカメラに関する必須特許を取得してしまえば、必須特許を保有していない後発企業の参入を排除できます。これが知財戦略の基本セオリーです。

 現実のデジタルカメラ市場でも同様の構図で企業が参入していったのでしょう。しかし、必須特許は各社それぞれが取得していたため、必須特許取得者の数だけ市場プレイヤーが現れたと考えられます。