鮫島正洋=内田・鮫島法律事務所 代表パートナー 弁護士・弁理士
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 職務発明規定を定める際に「従業員等との協議」が必要であることは、既に周知の通りです。これを怠るとどうなるのかというと、法令上「不合理であると認められる場合」に該当します。法令には「その発明により使用者等が受けるべき利益の額、その発明に関連して使用者等が行う負担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考慮して定めなければならない」と規定されています。この文言は中村修二氏(元日亜化学工業)に200億円の報償判決(2003年1月30 日の東京地裁の判決)が出された頃と変わりません。従って、多額の報奨金の支払いリスクが生じます。

 今回の改正に基づいて職務発明規定を改定する際にも、これまでと同様に「従業員等との協議」が原則として必要です。しかし、ここには重大な例外があります。今回の改正に基づいて、今まで発明者原始帰属だった特許を受ける権利を法人原始帰属にする改定については協議不要である、ということです。

 これは条文上、協議によるとはされていない同3項において法人原始帰属が規定されており、協議対象となる事項が定められている特許法第35条5項においては法人原始帰属が対象外とされているため、と説明されています。この扱いに争いはありません。

 次に、法律改正に乗じて職務発明規定の一部である発明報償を改訂することについてはどうでしょうか。例えば、出願時報償や実績報償の額や計算方法を見直す、退職時に実績報償を一括清算して退職後には支払いをしないようにする、といった改訂です。

 結論から言うと、発明報償=「相当の利益について定める場合」に該当するため、「相当の利益の内容を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議」が必要です。そうだとすると、一体どの程度の協議をすればよいのか、従業員等が納得(合意)をすることが必要なのか、という疑問が生じます。一般論として、法律で要求されているのは「使用者等と従業者等との間で行われる協議」(以下、協議)であって、その結果の「合意」は不要であるとされています。