A社の市場参入の考え方は正しいでしょうか。市場参入するためには、性能が良い、価格が安いなど、他社品に比べて何らかの付加価値がなければ市場には受け入れられません。A社の場合、人工心臓のバルブという用途から考えると、価格よりも性能が重視されることは明らかですから、A社の考え方には合理性があるようにも思えます。 ところが、知財戦略上は、A社の戦略にはリスクがあります。他社の特許について全く検討していないからです。例えば、人工心臓バルブで競合するB社が特許を保有していたとしたら、A社の目論見(もくろみ)通りにいくでしょうか。高性能の人工心臓バルブを製造・販売し始めたA社に対して、B社は特許侵害警告状を送りつけることでしょう。A社にとっては想定外のリスクが生じることになってしまいます。 つまり、市場参入の際には特許リスクを考慮する必要があるのです。では、そのためにB社の特許をあらかじめ調査して、全て回避することが必要となってしまうのでしょうか。必須特許ポートフォリオ理論という特許戦略のセオリーからすれば、実はそうではなく、B社の特許の有無にかかわらず、A社が自ら必須特許を取得することが重要なのです。 【必須特許ポートフォリオ理論】必須特許なくして市場参入なし
※必須特許とは、ある製品を生産する際に使用せざるを得ない(回避不能な)特許のことをいう。