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 4月18日は「発明の日」です。知財業界には「知財功労賞」という、知財業界の諸方面で活躍した人たちの功労に報いるという賞があります。知財功労賞には経済産業大臣表彰と特許庁長官表彰という二段が設けられており、当業界では非常に名誉な賞であるとされています。

 私の長年の友人であり、中小企業の知財戦略支援を共に推進してきた仲間である土生哲也氏が、2017年度の知財功労賞(経済産業大臣表彰)を受賞しました(参考PDF)。

 確か、2000年頃だったと思います。「政策投資銀行で特許担保をやっていて知財に興味を持ち、このたび、晴れて弁理士試験に合格しました」と語る、変わった経歴の若者(当時は互いに30歳代であった!)が私の所にやって来ました。それが土生氏との馴れ初めです。知財の本質はビジネスツールであり、実務家や学者だけの世界のものであってはならない、という想いを持っていた私は、金融出身という土生氏の経歴に惹かれました。当時、金融関係者が知財に興味を持つということも稀でしたし、ましてや、ベンチャー投資を担当しながら弁理士試験に合格してくる、などという人材には巡り会ったことがなかったからです。

 2人は意気投合し、やがて同じ職場(松尾綜合法律事務所)で勤務するようになりました。折しも、当時はビジネスモデル特許の第1次ブーム(ちなみに、現在は第2次ブームにさしかかっています)。銀行やIT企業のビジネスモデルについて発明の発掘を行い、当時はまだ未確立だったクレーミング手法を研究する毎日でした。

 その後、土生氏とは一旦は袂(たもと)を分かつのですが、2004年に特許庁から中小企業の知財戦略の啓発プロジェクトの委員長に就任して欲しいという要請が私に来ました。特許庁としては初めての試みであり、誰を招へいし、何をしたらよいか分からないから、企画・人選を含めて任せるというのです。この要請を受けた私は、このプロジェクトの本旨を踏まえ、「知財の実務経験を持っているかいないにかかわらず、知財と経営の融合というマインドを持っている人たちで委員会を構成したい」という想いを持ちました。そして、大多数は知財実務家ではない人たちによる委員構成となるだろうと想定される中、弁理士資格・知財実務経験に併せて知財と経営の融合というマインドを持つ土生氏の存在は貴重になると考え、同氏に真っ先に声を掛けました。

 そこから、足かけ10余年。共に多くのプロジェクトをこなし、中小企業の社長さんに会って、多くの場所に旅して講演を行ってきました。それが、今回の受賞の原動力となる活動となりました。

「知財は常に経営と共にあるべき」
「知財をいかにして分かりやすく、かつ、ビジネス的に伝えるか」

 こうした土生氏のスタンスは明快で、ブレがありません。そのスタンスが貫かれており、私が特に推薦する同氏の著書をいくつか挙げて、同氏の知財功労賞受賞のお祝いに代えたいと思います。「おめでとう!」。

「知財戦略コンサルティング―中小企業経営に役立つ10の視点」(発明協会)
「元気な中小企業はここが違う!-知的財産で引き出す会社の底力」(KINZAIバリュー叢書)
「ゼロからわかる知的財産のしくみ」(KINZAIバリュー叢書)

 なお、上述した特許庁のWebサイトには同氏の功労が以下のように紹介されております。


●従来、知的財産分野は独自で完結した領域であり、経営戦略との関係を軽視されがちであったところ、金融出身の弁理士として経営と知的財産との関係を探求し、経営に資する知財活動のあり方をいち早く提言。中小・ベンチャー企業の先進事例調査や支援活動を通じた知財活動の効果の多様性の分析・体系化から、知財活動を定着に導くフレームワークなどをパイオニア的に提唱し、中小・ベンチャー企業の知財活用を評価・支援するモデルを開拓。
●中小・ベンチャー企業向けの知的財産権関連支援施策が未確立であった中で、多くの著書、論文、講演等を通じて、このような中小・ベンチャー企業の知財活用モデルの普及、啓発に大きく貢献。特に、経済産業局管内の経営者、知財担当者に対し、経営課題と知財の活用方策を実践的に伝授する「知財塾」の企画を中心的に行い、発足時より自ら講師を務めるなど地域の草の根レベルでも地域企業の知的財産権制度の活用に尽力。
●特許庁における中小企業知財支援施策に加え、関東、中部、近畿、四国、九州の各経済産業局における地域・中小企業支援施策、事業等についても、当初から中心メンバーとして積極的に参画し、同施策、事業の円滑な推進に寄与。さらに、内閣官房知的財産戦略本部検証・評価・企画委員会構成員として政府の政策立案に貢献。