山口 実際の学生さんたちはいかがですか?

天野 幸いにして、うちの大学に来る学生さんはやる気があって、研究も一生懸命やってくれるのですが、心配なこともあります。1つは博士課程に行く学生さんは決して少なくないけれども、ほとんど外国人です。国籍で言うと、中国が一番多くて次に韓国。うちは面白くてギニアから1人、アメリカから1人。日本人は1人しかいないのです。

山口 そういう時代ですか。

天野 大学側も頑張っているけれども、ただ、世界と戦うという目で見ると、もっともっと変化のスピードを上げないといけないですよね。先日訪問した香港やシンガポールの大学はすごくランキングが上がっています。見て分かりますね。スピードがまず速い。どんどん社会の要請に応えて変えていく雰囲気があります。

山口 つまり日本の大学は、「社会のための研究(Research for Society)」ではなく、いまだに「研究のための研究(Research for Research)」の意識から抜けられないでいる。天野さんは大学院に進まれた頃から「社会のための研究に憧れていた」と仰っていましたね。

天野 ええ。それを今回の訪問では感じました。

(写真:上野英和)
(写真:上野英和)

山口 社会の要請に応える大学にするにはどうすればいいとお考えですか?

天野 難しい点があるのも分かるんです。例えばシンガポールの大学に対する予算規模は、GDP比で言うと日本とは比べものにならないほど高い。日本は残念ながらGDPが抑えられて、まずは社会保障費に出さなければいけないので、科学研究費や高等教育に割くお金は限られています。ただ、私の学生の頃もさほど科学研究費は多くなかったけれども、アイデアはたくさんあって、やろうと思えば自分で組み立てて実験もできました。その気持ちを忘れず、やりたいことを自由にできるシステムにするのが大事だと思います。

山口 変化のスピードも上げなくてはいけない。

天野 シンガポールは競争社会です。だからPI(プリンシパル・インベスティゲーター、研究責任者)になるにも年齢が関係ない。いいアイデアを持っている人は、30歳代からPIになって仕事を進めています。アイデアと力の勝負なので「年寄りにはつらい世界だ」とシンガポールの人が言っていました(笑)。

社会を根底から変える可能性

山口 問題は企業にもあると思います。私が見る限り、今の企業は昔に比べると、リスクに挑戦しなくなりました。

天野 いま企業がリスクに挑戦するのは、難しいでしょうね。

山口 何が企業の変化を妨げているんでしょうか?