山口 つまり亜鉛を添加しても最初は光らなかった。

天野 すごく弱かったんですね。でもNTTの武蔵野研究開発センターで電子顕微鏡を使わせてもらったとき、窒化ガリウムが電子線を浴びると青色発光がぱっと強くなる。それで電子線照射は効果があることが分かったんです。

 それから亜鉛よりもイオン化しやすいマグネシウムを添加した方が効果的なことに気が付いて、マグネシウム添加に切り替えたら、すぐできました。マグネシウムを入れただけだとp型にならなかったんですけど、電子線を当ててp型になった。それでようやく博士号が取れた(笑)。

山口 これは世界に衝撃を与えました。窒化ガリウムはもともとp型にならないんじゃないかとされていましたね。理論物理学者の中には「窒化ガリウムはp型にならない」と主張する人もいた。ところが、p型になることが世界で初めて証明されて、みんな驚嘆したと思います。

天野 でもどうだろう、半信半疑じゃないですかね(笑)。

天野浩氏
(写真:上野英和)

山口 1500回以上も実験を繰り返す根性というか土壇場の感覚が培われたのは、それまでに何か体験なり素地なりがあったんでしょうか。

天野 何だろう、うちは、おじが書道をやっていて、小学生の頃はずっと習字で同じ字を書いていたので、ずっと繰り返しやるのは、そんなに苦じゃなかったかもしれないですね。

山口 相手が材料、物質ですよね。物を言わないじゃないですか。物言わぬ相手と駆け引きをするというのは、普通の人はとても不得意です。

天野 レスポンスがない。でも当時は本当に顕微鏡と蛍光顕微鏡しかなかったわけです。でも顕微鏡を見ていると語ってくれますよね。

山口 語ってくれます。よく分かります。

天野 見ると何か語ってくれます。それは楽しかったですよ。