トヨタとの協業を発表するエヌビディアのジェンスン・フアンCEO(写真:エヌビディア)
トヨタとの協業を発表するエヌビディアのジェンスン・フアンCEO(写真:エヌビディア)

 「ついにトヨタも…」。自動車業界にそういう波紋が広がった。米国の半導体メーカーであるエヌビディアが2017年5月に開催した技術コンファレンス「GTC 2017」で、ジェンスン・フアンCEOが基調講演の中で、トヨタ自動車と協業すると発表したからだ。協業の内容は、トヨタが今後数年以内の市場導入を見込んでいる自動運転車に、エヌビディアの自動運転プラットフォームである「NVIDIA DRIVE PX」を 搭載するというもの。トヨタは2020年に、高速道路での自動運転を実用化すると表明しており、エヌビディアの技術が搭載されるのはこのタイミングだと考えるのが妥当だろう。

 トヨタのように系列を重視するメーカーが、自動運転車の心臓部に、系列外の、しかも外資系企業のシステムを採用することに筆者自身、まったく驚きがなかったかといえば嘘になるが、どちらかというと「やはり」という印象のほうが強かった。というのも、このところ世界の完成車メーカーや部品メーカーの間で、自動運転車の「頭脳」にエヌビディアの半導体を採用する動きが相次いでいるからだ。

 すでにトヨタ以前に、スウェーデン・ボルボ、米テスラ、独アウディ、独ダイムラーといった完成車メーカーや、独ボッシュ、独ZFといった世界1位、世界3位(いずれも米オートモーティブ・ニューズ誌による2015年のトップ100グローバルOEMサプライヤーランキングによる、ちなみに世界2位はデンソー)の巨大部品メーカーが、相次いでエヌビディアとの協業を発表している。自動運転車の開発で先行する米グーグルも、これまでの自動運転の実験車両ではエヌビディアの半導体を使っていると言われている。

ディープラーニングを高速実行

 エヌビディアは、GPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)と呼ばれる高性能半導体で世界最大のメーカーである。GPUはもともと、画像処理専用に開発された半導体で、通常のパソコンやスマートフォンの頭脳に当たる部分に使われているCPU(セントラル・プロセッシング・ユニット)よりも高い画像処理能力を備える。

 なぜGPUはCPUよりも高速で計算できるのか。CPUは、プログラムの命令に沿って、内蔵されている乗算器(掛け算をする部分)や加算器(足し算をする部分)などで演算処理を進めていく。一方、画像処理の場合には、デジタルカメラやビデオカメラの多くの画素一つひとつについて演算処理が必要だ。命令を一つひとつ処理していくCPUでは処理に時間がかかる。最近では、演算処理をする「コア」を2~8個搭載する「マルチコア化」により処理の高速化を図ったCPUも登場しているが、それでも、画像処理には速度が十分ではない。

 これに対してGPUは、演算処理を実行するコアを画像処理に関連する命令の実行だけに特化させることで小型化し、一つのチップ上にコアを数百~数千個搭載している。そして、この多数のコアで演算を並行処理するため、CPUよりも格段に演算を高速化できるというわけだ。GPUのコアは、CPUのコアに比べると、実行できる命令の種類が限られているので、あらゆる計算でGPUが速いわけではないが、画像処理や、自動運転車で使われている人工知能技術「ディープラーニング」の演算を、CPUよりも格段に高速で実行できるのが特徴だ。

GPU(右)はCPU(左)よりも格段に多い「コア」で並列演算するため画像を高速で処理できる(写真:エヌビディア)
GPU(右)はCPU(左)よりも格段に多い「コア」で並列演算するため画像を高速で処理できる(写真:エヌビディア)

 ディープラーニングは、脳の神経細胞であるニューロン細胞のネットワークを模したニューラルネットワークを3層以上重ねたディープ・ニューラル・ネットワーク(DNN)を用いる人工知能技術だ。現在各社が開発を進めている自動運転の実験車では、歩行者や周囲の車両などを認識させるのにディープラーニング技術を使っている。DNNは、大量の画像データを読み込ませ、何が歩行者で、何が車両か、などを学習させることにより、高い精度で対象を認識できるようになるのが特徴だ。