クルマの電動化の機運が急速に高まっている。CO2削減技術として、これまでディーゼルエンジンを中心に据えてきた欧州では、独フォルクスワーゲン(VW)のディーゼル不正を契機として、EVの導入へと舵を切りつつある。この連載の過去の記事でも紹介したのだが、2016年9月に開幕したパリモーターショーでは、VWや独ダイムラーが新世代のEV(電気自動車)のコンセプトカーを出展し、2025年に、VWは年間100万台のEVを販売することを目指す一方で、ダイムラーは販売台数の15~25%をEVにするとぶち上げた。米国では、テスラ・モーターズが2017年に売り出す新型EVの「モデル3」が、予約開始から3週間で約40万台もの予約注文を集め、米国でもEVに関心が高まっていることを印象づけた。

 すさまじいのは中国である。日本にいると気づかないが、中国の2016年のEVの販売台数は40万9000台に達した。日本ではこのところ、EVとPHV(プラグインハイブリッド車)の合計でも販売台数は2万4000台程度にすぎない。中国におけるEVとPHVの合計の販売台数は50万7000台もあるのだから、日本の20倍以上に当たる。2016年の中国における自動車の販売台数は約2800万台と、そもそも日本の約500万台に対して5.6倍もあるのだが、それにしてもEV・PHVの比率が高い。

 しかしここ日本でも、トヨタ自動車が2017年2月に発売した新型PHV「プリウスPHV」が、注文から納車まで3カ月以上かかるなど好調な売れ行きを示しているほか、ことしの秋に開催が予定されている東京モーターショーでは日産自動車が、2010年に世界最初の量産EVとして売り出した「リーフ」の全面改良を予定しており、今後EVやPHVの販売台数が大幅に伸びる可能性がある。

 こうなると問題になるのが充電設備だ。すでに日本では普通充電ステーションが全国に1万4583カ所、急速充電ステーションが7100カ所普及している。しかし、EVで本当に航続距離が問題になるのは、主に長距離を走る高速道路である。高速道路のサービスエリア(SA)に設置されている急速充電ステーションはこのところのEVの普及で、順番待ちになっているのを多く見かけるようになってきた。

 現在のようにまだ日本全体の保有台数が約14万台(平成27年度末時点)と、保有台数全体の0.17%にしか過ぎない状態でもこうだから、今後仮に保有台数の数%になっただけで、相当な順番待ちが発生する可能性がある。かといって、SAのスペースにも限りがあり、むやみに充電ステーションを増やすわけにはいかないだろう。また現在約30分かかる充電時間を大幅に短縮する技術革新にも、しばらくは時間がかかりそうな状況だ。

道路を充電ステーションにする

 こうした状況に対する一つの解決策として、東京大学大学院新領域創成科学研究科の藤本博志准教授らの研究グループと東洋電機製造、日本精工は、道路に埋め込んだコイルから、走行中のEVの駆動用モーターに直接電力を供給する技術を開発し、実際に送電する実験に成功した。つまり、道路を充電ステーションにしてしまい、走行中のクルマに電力を直接供給するようにすれば、SAに充電ステーションを増設しなくても、EVの長距離走行が可能になるというアイデアだ。

東京大学の藤本氏らのグループが開発した道路から非接触で充電する実験車両。地面に埋め込まれているのが送電コイル
東京大学の藤本氏らのグループが開発した道路から非接触で充電する実験車両。地面に埋め込まれているのが送電コイル

 約2年前のこのコラムでも、同じ研究グループの開発成果を紹介している。このときには、車輪を駆動する「インホイールモーター」に、車体から非接触で電力を供給することに成功した、という内容だった。このときにも説明したのだが、簡単におさらいすると、インホイールモーターとは、車輪と一体化した駆動モーターのことだ。