欧米にやられる前にロードマップを描け

中川氏:自動運転の話なんですけど、鎌田先生はそこにどのように関わっておられるんですか。

鎌田氏:国としては内閣府で「SIP-adus」、経済産業省と国土交通省では「自動走行ビジネス検討会」というのをやっていて、私は後者のビジネス検討会に座長役ということで関わっています。自動運転に関しては、高速道路での一部自動運転、つまりレベル2は来年ぐらいに市販品がでてくると。あくまでレベル2なので、何かあればドライバーがオーバーライドして、制御するという形です。

 世の中で期待されているのは完全自動運転で、スマホをいじっていても、コーヒー飲んでいてもいいとか、そういうものです。いわゆるレベル3とか4まではまだまだやることが一杯あって。一部ベンチャーなんかはやるぞって言っていますがいろんな悪条件の下でも完全に動くというのは、もう少し時間がかかりそうです。

 自動ブレーキは最近普及が進んでいいと思うんですが限界はあって、たとえばアイサイトのようなカメラを使っているものだと西日で逆光だと働かないとか、白線検知の画像処理も雪の日はどうするのかとか、白線がかすれていたらどうするかとか限界はあるわけです。もっともっとやっていかないといけない。

 技術屋は技術を極めたいからどんどんやっていく。でも、テストコースでうまくいっても世の中に実装できないと意味がないじゃないですか。トラックの隊列走行なんかも、車間距離4mで電子連結みたいなところを目指すわけですが、ダイムラーが出したように、10mでもいいからとにかく出して実走行のデータを採ってやっていった方が最終的には勝ちになるんだと思います。

中川氏:そうだと思います。飛行機なんかも、とにかく飛ばして乱気流の中に入ってデータを集めて安全性を高めてきた。同じことですよね。

鎌田氏:技術を積み上げていくというのももちろん大事なんですが、自動運転が実現すると社会が大きく変ると思うんです。そこに目を向けて議論したいんですが、今は2020年の東京オリンピックとか目先のところに視線がいっちゃっていて、その先が議論できてない状態です。

 ぼやぼやしていると、欧米に先行されてしまうじゃないですか。日本には優秀な自動車メーカーがあって研究所も大学もあるわけですから、一致団結して組織を作ってやるべきだと思うんですよ。

中川氏:まったくそうですね。super sensing forumをやる気になったのも、アーキテクチャーを描く日本を、きちっと取り戻さないといけないと思ったからです。目先のビジネスユニットの話しかしない。一番の問題は人材です。今日のパンの話だけをしていると、アーキテクチャーを描ける人材が育たなくなりますよ。すべての面でこれ(短期的思考)が出ているんです。農業、住宅、街づくり、製造業を含めた都市交通。部分的な技術最適を求めようとしすぎていて、シュリンクしていっている。

鎌田氏:おっしゃるとおりです。技術的な実力はあるけれども戦略がない。

編集部:今日のお話を伺っていて、考えすぎるとだめだし、考えなしにはじめるとだめ。その辺りのさじ加減がむずかしいなと思いました。

鎌田氏:大きなターゲットだけではなくて、そこはマイルストーンを作って精緻なロードマップを作るべきなんですよね。

編集部:自動車メーカーの話をすると、あまり長い絵を書くと、自社のビジネスが壊れるということが分かってしまうように思います。

鎌田氏:今のままのビジネスの延長ってありえないじゃないですか。自分の企業だけでなくてグループも含めて、そこをどうやって勝ち進んでいくのか、そこを考えないと。場合によってはIT企業を仲間に迎えてもいいじゃないですか。

編集部:自動走行ビジネス検討会では、マイルストーン決めようとはされていないですか。

鎌田氏:やろうとはしているんですが、2020年までの調整や整理で今は追われています。まだ終わったわけではないので、継続してやっていきますけど。

 私が最近言っているのは、5年後に完全自動運転はたぶん無理、ほとんどの方がここにはネガティブです。では50年後はどうかというと、ほとんどの方が完全自動運転になっていると考えている。つまり、5年後と50年後の間のどこかでジャンプをしないとだめなんです。そこに一番乗りして、そこの標準とか試験法を牛耳るようなことをするか、あるいはゆっくりやって後出しじゃんけんのほうがいいという戦略もありかもしれない。それも一つの選択肢ですよね。そこら辺の議論をきっちりやりたいんですね。皆さん今、自動運転の技術を競っていますけど、自動運転が当たり前になったら、自動運転そのものは当たり前の技術で何をその上に載せるかが価値になるはずです。その当たり前のところは共通化してしまったほうがいいと思っています。

 自動運転をどうやって実現するかではなくて、自動運転がくればどうなるのかをもっと実証実験してみたいんです。普通の車だと大変なので、例えば時速20kmレベルで、ある離島の中を全車完全自動で1年ぐらい運用してみるとか。そんな実験をやってみたらいいんですよ。全部が同じアーキテクチャーで動いているなら、相手のクルマがどう動くか分かるわけですから、事故は起きない。後は歩行者とか自転車との関係に配慮すればよい。時速20kmだから技術レベルは高くないかもしれませんが、そうしたときにその島民の方の生活がどう変るかということをきちっとみていくと、自動運転が拓く未来が見えてくると思うんですよ。そして徐々に速度を上げていくとか、自動と手動を混合させていくとか、レベルアップしていけばよいのですよ。

中川氏:それ大賛成。ニューヨークの近くにファイアーアイランドって島があるんです。そこいくとクルマ絶対だめなんです。フェリーで島に着くとみんなカートで生活している。実験ではなくてルールとしてカートと電気で生活することが決まっている。

 (ピクトグラムで有名な)太田幸夫先生がおっしゃっていたんですけど、イタリアに小さい町があって。その町は30年前に信号のない街にすると市長が宣言をしたと。ミラノに講演があったから最近そこにいったそうです。そうすると本当に信号がなかった。その町を外から訪れた人には車を表に止めさせられる。そこから内側は地元人間しか運転していない。高速バスと同じですよね。そこから先は域内ですべてコントロールしているんだそうです。だから僕、先生の話に大賛成。島全体を自動運転にすれば、いろんな人が外から見に来て、それ自体がプロモーションになっていく。その先はどうなっていくんだと考えていかないとだめですよね。スマートシティーの話でもどこか限定的にやらないと。でかい都市をそうしていこうというのは難しい。事前議論だけで山積みになってしまって先に進まず、大変になってしまうと思うんですよ。とりあえず、社会がどう変るかの方ですよね。社会にとってのデザインとかエンジニアリングの意味ですね。

 無人化されている島しょが瀬戸内海には一杯ある。そこで住んでやってみればいい。ただ、結局のところ、行き着くのはその先のそれを受け取れる人材がいるかですね。