中川聰のSUPER SENSING問答

自動運転にディープラーニング以外の道はある

対談:神崎亮平氏(東京大学 先端科学技術研究センター 教授)(後編)

  • 文責:中道 理
  • 2016/03/16 00:15

 昆虫のセンサや脳を研究することで、驚異的な性能のセンサや効率的な処理回路を開発する。そんな研究をされているのが、東京大学 先端科学技術研究センター 教授の神崎亮平氏です。後編となる今回は、昆虫の驚異の能力の本質が、さらに明らかになります。(編集部)

(写真:栗原 克己)

前回はこちら

神崎氏:環境世界を考える上で重要な3つの世界のうち、最初の感覚の世界を話してきましたが、もう1つ、昆虫の偏光の検知について話しをさせて下さい。ご存知のように、偏光フィルターというのは、光の特定の振動方向しか通さない。この偏光フィルターで青空を見ると、空は場所によって偏光パターンが違う。つまり、青空には太陽の位置によって変化する偏光のパターンのあることがわかる。だから、偏光が見える眼があれば、青空をみると、たとえ太陽が雲で隠れていても、太陽の方向が一発で分かるんです。

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 (複数の蜂が巣の上で動いている動画をみせながら)これ見てください。ミツバチが巣の中で8の字を描いてダンスをしています。実は、このダンスで、仲間に餌場の位置を教えているんです。ミツバチは偏光が見えるので、太陽の方向が分かります。ハチの頸には毛が生えていて、重力方向に頸が傾くと、それをこの毛が検出することで、重力の方向がわかる。ミツバチは、重力と反対方向を太陽の方向とします。そして、8の字ダンスで描く直線の方向を餌場の方向とし、太陽と餌場と巣箱の関係を仲間に教えます。さらには、この直線の動きがどれくらいの時間続くかによって、巣から餌場までの距離を伝えるんです。われわれが検出できない偏光を利用することで、太陽と巣と餌場の位置関係を的確に伝えるわけです。

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 次にお見せするのが、ショウジョウバエの行動です。たくさんのショウジョウバエを容器の中に入れて、その動きを観察します。(ショウジョウバエの動画を見せながら)よく見てください。ショウジョウバエ同士、ぶつかることなく、お互いが譲り合いをして、どっちかが止まることでぶつかることがない。

中川氏:制御かかっているっていうことですよね。

神崎氏:そうなんです。昆虫の視覚は0.01で、奥行きもわからないですが、このような道なき道、スクランブル交差点のようなところでも、お互いぶつかりもせずに、行動をするわけです。

中川氏:これは本能的な動きなんですね。

神崎氏:そうなんです。比較的簡単なルール、本能的にこのようなことが実現している。自動運転にしろ、クルマの制御にしろ、本能的なルールをクルマに搭載する、その程度の知能化をはかるのがよいと、個人的に思っています。進化の結果、障害物を避ける行動を起こす鍵刺激は何かとか、どのように避ければよいかなどが獲得されたわけですね。生物にとって、どのように振る舞うことが適応的なのか、有効な手立てなのかといおうノウハウが、そこに潜んでいるわけです。

中川氏:簡単なルールにしといたほうが、何か問題が起きたときに対する再検証がしやすいですよね。

神崎氏:ディープランニングで知能化を図るのもよい方法だと思います。一方で、生物、とくに昆虫のような比較的単純な生物が、どのような手立て、知能を獲得したかは興味あるところです。

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 昆虫の衝突回避の能力を示す、簡単な実験を紹介しましょう。この図のように、コオロギを仮想環境の中において、前から来た仮想の障害物をどのように避けるかを調べたんです。この映像のように、コオロギは見事に障害物を避けます。いったい、障害物の何を鍵刺激としているかを調べるわけです。このような仮想環境を用いると、いろんな刺激を与えることができ、そこから鍵となる信号を読み解くわけです。前にも言いましたが、一部の情報でいいわけです。すべて必要ないのです。

 そこには鍵となる信号があるわけで、それを突き止めることになります。衝突回避のような行動は、反射的、つまり本能的に起こるわけで、生物、ヒトも含めて共通した仕組みがあると考えられます。それがわかれば、クルマに搭載してあげれば、ヒトにやさしい回避ができる知能をクルマに与えることができると思います。クルマとヒトは一体化していることが重要です。切り離して考えるのは得策ではないと思います。一体化の根本は本能なんです。クルマの運転技能も初めは認知レベルで始まり、本能に移行していきます。

ぶつかるコミュニケーションも想定すべき

編集部:結局今、画像処理でも特徴量を見出してやっているんで同じですよね?

神崎氏:生物にとってはまさにそれが、進化の過程で身に付けたものだから、そこを使いましょうということになります。1つの物体を避けるのは比較的簡単ですが、複数物体を避けるのは難しい。昆虫はもちろんそれをやるわけです。コオロギに複数の物体を見せると、面白いことに、注目している物体に対して、触角を向けるんです。それで、複数の物体がある中でも、今どれに注目しているのかがわかるんです。それを分析してルール化するんです。

 昆虫が障害物に対して、何を鍵刺激にしているのか、複数の障害物があるとそのどれに注目しているかなどを統合してルール化して、移動ロボットに実装して、障害物回避のシミュレーションをしてみたんです。通常の衝突回避では、障害物の移動から自身が回避できる経路を全探索しますが、それに対して、かなり処理を省くことができます。さまざまなシーンでシミュレーションしてみたんですが、8割は回避できますが、2割のケースでは衝突します。

中川氏:(移動ロボットの動画を見ながら)でも何か動き方がとても気持ちいいですよね。何かこう自然ですよね、逃げ方が。

神崎氏:そうなんですよね。でもクルマ関係の方からは、8割だとだめで、10割じゃないといけないと言われています。生物的なセンスなんですが、生物は完璧に避けないで、実はぶつかることで、この基本ルールを更新するわけです。つまり学習が入り、基本形、つまり本能系を修飾し、より効率的に本能系を少しだけいじるわけです。さらには、ぶつかることで個体間であればコミュニケーションをするわけで、ぶつかることを有効に使うんです。これも進化のたまものですね。

編集部:自動運転をやっている研究者たちには、虫のアルゴリズムで自動運転やろうよ、という話は響かないですか。

神崎氏:今の方向は、ディープラーニングなどの人工知能の活用なんでしょうね。

中川氏:そこもおもしろいよね。ディープラーニングのほうが安心だと言って、行ってしまう人間。それこそが人間なんだろうって話をこの前、渡邉克巳さん(早稲田大学 教授)と話したところなんだよね。複雑さ、複層化に向かっている方が正しいと人間は思っちゃう。

神崎氏:パーソナルモビリティーみたいなもので、僕が言っているような生物方式を使っていくのは、非常に有効だと考えています。本能的な基本ルールをクルマに搭載し、たまにぶつかることで学習しながら、さらにはコミュニケーションもする。これって、生物的でいいと思いませんか。僕はもっとぶつかったほうがいいって、クルマ関係の方には言っているんです。パーソナルモビリティーって、クルマが運転者のからだに化けて一体化していく、身体化といいますが、それが重要になります。ヒトは道具を使うと、たとえば、野球のイチロー選手にとってはバットは、彼の体になっていき、脳もそのように変わっているはずです。これが将来のパーソナルモビリティーには重要になってくるはずです。そこには、僕がこれまで言っていることが生かされると思います。パーソナルモビリティーは、ヒトにやさしくないといけない。それは生物が進化で獲得した手法をうまく使ってあげることです。

 そうでないと、ヒトの能力ばかりに頼ることになり、一体化に時間がかかるし、高齢の方には簡単ではない。乗り込めば、おばあちゃん、おじいちゃんもすぐにそれ相応のレベルでクルマを動かせ、さらに個性も追加されていく。また、ぶつかることで、コミュニケーションが図られ、恋が芽生えることもあるかもしれない。特に老人は単に乗っているだけでなく、ちゃんと動かすことで、これは体を動かくことに等しくなり、その結果、身体の健康機能を保つことにもなり、楽しく生きていく手立てにもなるわけですね。

中川氏:確かに、情報って、非接触で刺激がない状態っていうのはある意味危険な状態を指すんだと思うんです。だってセンシングできるものがなくなったとすると、感覚は衰退するわけだから。人ってやっぱり刺激の中で、不快だから覚醒している。

ハチは300Hzを知覚できる

神崎氏:次に、時間の世界、生物にとっての時間、一瞬の意味の話をします。(50Hzで点滅している点を映しながら)これちかちかしてますよね。10Hzくらいなら問題なく点滅しているのがわかる。こちらを見てください。これは50Hzで点滅しているんです。でも、我々にはわからないですよね。一方で、昆虫ですが、ミツバチは250Hzで羽ばたくんですが、これは僕らにはもう全く区別がつかないですよね。実は、驚くべきことに、ミツバチは300Hzの点滅を検知できるんです。この能力も衝突回避には重要でなんです。

編集部:石川先生注)のとこの研究と同じですよね。

注)東京大学 教授の石川正俊氏。超高速カメラを使ったシステムを研究している。

神崎氏:そうです。昆虫は、まさに石川先生の研究を、地でやっているわけですね。ヒトは、せいぜい50Hz程度しかわからない。

 感覚の世界、時間の世界の話をきましたが、最後にサイズの世界の話をしましょう。これは、先ほど昆虫がからだの表面にたくさんの種類のセンサをはりめぐらしているというところでも説明したんですが、面積は縦×横、体積は縦×横×高さで求めるので、大きさが小さくなると、面積は2乗で、体積は3乗で小さくなるので、体積に対する面積の比が大きくなるということがもたらす効果についてです。

中川氏:特性がガラッと変わっちゃうって話ですかね。意味合いが全く逆転してるんですね。

神崎氏:そうなんですよ。生物の大きさによってセンサの特徴も変わってくると考えられます。例えば匂いのセンサですが、ヒトの場合は、鼻にある匂いを検出するセンサー、嗅覚受容細胞というんですが、いろいろなたくさんの匂いに対して反応します。センサーごとに少しずつ特性が違います。一方で、昆虫では、匂いのセンサが反応する匂いの種類は少なく、選択性といいますが、高くなるんです。ヒトの場合は、立派な脳があるので、それで情報処理をして、匂いを区別する。昆虫も脳で処理をしますが、センサーでだいぶフィルタリングされるので、処理が軽く済むわけです。だから匂いのセンサを作る場合でも、昆虫のセンサーが使えればすばらしいわけです。また、昆虫ならではの匂い、ヒトには検知できないような匂いも検知できるわけです。これまで、感覚の世界、時間の世界、そしてスケールの世界について話してきましたが、生物はそれぞれ異なった世界を構築しているんですね。生物の種類が違えば、環境世界は違うわけですが、これはヒト同士でも同じことが言えます。

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 (画像を見せながら)リンゴがあるじゃないですか。で、これ何色ですかって聞くと、赤って言うでしょ、全員が。ところがこの赤っていうのはもちろん、リンゴから反射したある波長の光が、僕らの目に届いて、網膜にある細胞、視細胞といいますが、そこで反応がおこって、それが脳にいくことで知覚するわけです。面白いのは、視細胞での反応を計測すると人それぞれで違うんですよ。その違った信号が脳にいって赤と感じるわけです。

中川氏:みんな違う世界を作っているっつうことだ。

編集部:なるほど、僕が思っている赤と、先生が思っている赤は…。

神崎氏:違う赤なんです。

中川氏:みんな赤ってのは、これが赤って小学校で教えてもらっただけの話だよね。例えば、優しい形というあいまいなもので、造形を作らせてみる。感覚でですね。そうするとやっぱりソーシャライズっていうものがあって、同じような形が出来上がってくる。僕は、ある規定範囲をソーシャル的に抑え込んでいると見ている。赤だっていうことがやっぱり決めつけになっている。何で太陽は赤かって、誰も赤だと思ってないのに。太陽の赤を描くのは何でなんだと考えた。

神崎氏:ちっちゃい子だと、いろんな色で描くって聞きました。

中川氏:そうそうそう。描きますよ。

神崎氏:雪なんかを黒く描く子供もいますよね。確かにたしかに、見上げて雪を見ると影で黒く見えるんですよね。

(写真:栗原 克己)

中川氏:そうなんですよ、もう見ると影、光があって影は黒いでしょ。だから黒と言えなくはないですよ。僕らなんか嘘を描いている。海なんか水色で描くじゃないですか。嘘ですからね。だから分かったということは、概念が固定化することだけど、人は実際は分かっていないんじゃないかと思うんです。単に個人の中で、仮説化がされているんです。一旦そこのことで信頼しているだけで、全く仮説の基盤にしか過ぎないんですね。人って常にその仮説を書き換えているんです。

意識によってセンシングが変る

神崎氏:これを見てください。(立体を描いた2つの絵A、Bを見せながら)どっちがへこんで見えますか。Bのほうですよね。ところが、180度回転させるとAがへこんで見える。逆転するわけですよ。同じもの見ているのにです。

編集部:でも、私、自分の意思でへこんだり、出っ張ったり自在に変えられるんですけど。何が起こっているんですかね。

神崎氏:これを見てください。(円周上に並んだ丸が描かれた2枚の絵(丸の描かれた部分がずれている)を交互に表示する動画を見せながら)これ、回転しているように見えますか?回転しているとすると、どっちに回転していますか。

編集部A:右です。
編集部B:左です。

神崎氏:そうなんです。左右どちらにでも回転しているように見えるんです。じゃあ、今度は、たとえばドアのノブ回すような感覚で、右、左って回すことを意識して、見てください。どうなります?

編集部:左右への回転と、同期し始めました。

中川氏:錯視っていうのは大変僕が興味をもっているとこなんですよね。錯視っていうのはいかに人間の脳が規制された中でしか機能できないかってことを教えているんですよ。

神崎氏:センシングしても上位の処理で意味がまったく違ってくることがあるんですよね。

編集部:コンピューターで解析したらどうなるんですかね。どっちに回っているかって。

神崎氏:センサーでは同じものを検出しても、脳の上位での処理の結果としてこのような錯覚が生じるわけですよね。ヒトの視覚情報処理のモデル化をおこなっている研究者で、このような錯覚が生じることを示している研究者もいます。

編集部:この回転を感じているのは、先にお話いただいた脳の3層構造のうち第何層になるんでしょうか。

神崎氏:実は、このような錯視はミツバチも持っているようなんです。だから、かなり下位の脳のレベルでもこのような処理がおこなわれている可能性があります。

中川氏:ディープラーニングもさ、結果的にできるのは画像認識くらいでしょ?だからその次どうすんの、っていう話にやっぱりなってくると思うんですよね。

神崎氏:そこはやはり、さらなるブレイクスルーが必要になるでしょうね。感覚についてもレベルがあるわけですよね。レベルによって、感覚→知覚→認知となります。たとえばここにリンゴがあるとする。リンゴには属性があって、赤い色とか、丸い形。持つと重さがある。食べると甘酸っぱみがある。そういう属性、特徴がある。このそれぞれの属性を感じることをセンス、感覚といいます。

昆虫は遊ぶのか

神崎氏:そして、それぞれの属性が集合して、全体としてリンゴになるわけで、それを知覚といいます。

 さらには、そのリンゴをみると、青森や長野を思い浮かべたり、あるいは、彼女の唇を思い浮かべる人もいることと思います。こういう、知覚が関係性、意義と結びつくことになる。これを認知と言ってます。ディープラーニングでどこまでやっていけるかとうことが課題なんでしょうね。感覚には、“感覚する”だでなく、さらにそこに意味や意義、関係性も含まれてくるわけです。

(写真:栗原 克己)

中川氏:美術評論家の中井正一が、近感覚について書いていたんです。中井正一が書いた文章で、失恋したときに、新潟の夕日を見ていたと。体中でそのとき、「ああ、つらかった」と覚えた。もう何年か経ってから、いい人に巡りあって結婚して、それでパラオに行ったと。その彼女が後ろに座っていて、僕は朝方、パラオの朝日を見たら、失恋したときの気持ちを思い出したって。そこがもう第2階層で、中井正一がすでにもうそのこと70年で、言っているわけですよね。だから概念の枠組みってそこまでですね。だからその近感覚1つにとっても、そういう感覚的なものっていうのは転回しちゃうでしょ。刺激しちゃうね。朝日なのにその色を見て、その色がその思い出したのは新潟の失恋だと。

神崎氏:感覚で、また重要になってくるのが、マルチモダリティーとかクロスモダリティーというもので、センサーでは、別々にセンシングしても、脳ではその別々の信号がいっしょくたになる。Aという感覚とBとう感覚がはいってくると、AたすBだけじゃなくて、A×Bと掛け算になったりする。例えば今回のSUPER SENSINGの話でも、われわれが普通に感覚できる世界に、これまでセンシングができなかったBという感覚が刺激として入ってきたときに、それが単純に足し算なのか、あるいは掛け算として機能するのか。はたまた、それ以外のことが起こるのか、これはすごくおもしろいと思います。

中川氏:それは、刺激の与え方なんですかね?

神崎氏:人の脳には、感覚情報処理のキャパシティーがあると思うんです。五感を目いっぱい使っているところに、新しいXという感覚が入ってくるとどうなるのか。ABCを使ってたんだけども、ABだけにしてXを足すっていうようなやり方をするのか。これによって、感覚のホメオスタシス(恒常性)を保つようなことをするのか。はたまた、感覚のあらたな次元へと昇華させてくのかはおもしろいですね。

中川氏:ヘレンケラーなんかもそうなんです。要するに人間はマルチモーダルになっているんですよね。ユニバーサルデザインなんかで、耳の聞こえない方たちと一緒に仕事をしたんですが、彼らはすごく触覚を気にするんですね。必ずいろんなものを手でしっかりと触ろうとするんです。欠けているものをね、他の情報で取ろうとするんですね。目で見ればいいのに僕は思っていたのに、それは健常者の話で、彼らはより触っていたほうが安心するって言うんですよね。

 これすごいんですが、目の見えない方たちに車の中に入ってもらってユーザビリティー調査をしていたんですよ。僕の目的は椅子の使い勝手のデザインだった。複数の異なる車のシートに眼の見えない方が座るじゃないですか。85%ぐらいの方が先天的に眼が見えなかったんです。全員がシートに座ると、天井までの距離を「3.5cmぐらいあるんですかね?」って言うんです。ぜんぜん天井に触ってないのにですよ。しかも正確なんです。別の天井の高い車に乗ってもらったら、「あ、高いな」って言うんですよ。

 そのときに僕は、皆さん五感を使っているわけだけど、領域的にはエッジの何かかなり違うとこ使っていたって思ったんです。

神崎氏:それは本当に座っただけで?

中川氏:そうですよ。眼の見えない方を、花見に招待したこともあるんです。そうするとね、花はだから多分、匂いでわかるのかなって僕らは思っていた。匂いの方が視床下部を通過するから。花を匂いで楽しもうって、木の近くにお連れしたんですが、彼らが、「先生、匂いは全く感じませんでした」って。お連れした皆さんも「我々やっぱり匂いを感じるかなとも思った」とおっしゃるわけです。そしたら花見の感覚は、周囲の人たちの嬌声、「わあきれい」という、もうそれしか興味がなかったって全員が言うんです。そのとき美味しい酒の匂いとかしているんですよ。でも目の見えない方はそっちじゃなくて、楽しい声の方を取ってきたんです。

 ハウスメーカーにも20人ぐらい、目の見えない方をお連れしたこともるんですが、前のドアを開けると、全員がですよ、全員で「先生、奥吹き抜けですか」って言うの。多分、気圧みたいなものを捉えている。すごいですよ。

 ブラインドレーサーのBobby McMullenという人に会いにいったこともあるんすが、彼はダークアイで10パーセントも見えないんですよ。ほぼ全盲です。彼が、クロスカントリーの自転車で時速70キロでダウンヒルするんです。どうやるかっていうと、感覚で覚えている。練習のとき、転ぶんですよ。見ていても怖いぐらい転ぶ。そうするとね、手で触ってね。3キロもダウンヒルをやってね、前にいる人が「ライト、ライト」とか「レフト」とか言うだけなんですよ。それ見たとき、人間てすげーって思いました。僕はヘレンケラーが書いたレターを持っているんですけど、すごく上手なんです。

神崎氏:見てみたいな、ぜひね。

中川氏:今度お持ちします。こういう我々がまだ解明できてないところと、昆虫の、今、神崎先生なんかがいろいろと研究されたり、他の昆虫学者や動物学者がやってきたところの外に、気付かない領域があるかもしれないですね。

神崎氏:あるでしょうね。

中川氏:生き延びるための行為と、そこを越えて発達した部分、それってどのぐらいのレベルの動物から出てくるのか。カモメを見ていても、カラスなんかを見ていても、風に向かって遊んでいるんじゃないかと思うことがありますよね。どのぐらいからそういうある種の遊びを始めるのか、大変興味あるんですね。芸術とか遊びの部分とかが余白的なのか、そうじゃなくて、そういうのはある種、究極的な生き延びるための方策なのか。

編集部:昆虫は遊ばないんですか。

神崎氏:遊びは第3階層だと思うんです。多分ね。遊びに使うだけの脳の容量がないのかもしれないですね。なにしろ脳が小さいので。

中川氏:僕が言ったのはそこなんですよ。将来、昆虫に対して新しい刺激を与えるということがあるでしょう。そこで遊ぶようになるか。見てみたい。

■変更履歴
サブタイトルとして、神崎氏の所属を「東京大学先端技術研究センター」としていましたが、正しくは「東京大学先端科学技術研究センター」です。お詫びして訂正します。該当部分は修正済みです。 [2016/03/17 09:45]