第4次産業革命を意味する「Industrie 4.0(インダストリー4.0)」といえばドイツの“専売特許”のように思えるが、ほぼ同じ言葉を掲げて産業のスマート化を推進している国がある。ドイツと国境を接するチェコだ。チェコの産業貿易省が起草し、2016年8月に同国政府が承認した「Průmysl 4.0」(Průmyslはチェコ語で「産業」の意味)と呼ぶイニシアチブの下、産官学が一体となって研究開発や実証実験に取り組んでいる。

 チェコは、欧州でも指折りの工業国である。世界銀行の統計によれば、2015年の同国の国内総生産(GDP)に占める第2次産業の割合は37.8%。これは、欧州連合(EU)加盟国ではアイルランドに次いで2番目に高い数値だ。「ロボット」という言葉が生まれた国だけあって、ロボットをはじめとする機械産業も盛んである。

 2017年4月上旬に東京都内のチェコ大使館で開催された「チェコ版インダストリー4.0」に関するセミナーでは、同国の企業や大学などから多数のキーパーソンが登壇し、それぞれの取り組みを紹介した。初めに、チェコ工科大学(Czech Technical University in Prague)教授で、同大学情報科学・ロボティックス・サイバネティクス研究所(CIIRC:Czech Institute of Informatics, Robotics and Cybernetics)の所長を務めるVladimír Mařík氏が、チェコ版インダストリー4.0の現状と将来を語った。同氏は、チェコ版インダストリー4.0の策定において中心的な役割を果たした人物である。

 同氏によれば、チェコの産業は中小企業が多く、直接輸出の32%をドイツ向けが占めるなどドイツ経済と強く結び付いている。従って、チェコ版インダストリー4.0は、チェコの中小企業がドイツの大企業といかに連携するかということに重きが置かれている。「チェコの経済的地位を維持・強化するには、ドイツのインダストリー4.0との互換性が不可欠だ」(同氏)。チェコが自国のイニシアチブにドイツとほぼ同じ表現を用いたのも、このあたりに狙いがありそうだ。

 チェコ版インダストリー4.0の策定と並行して、チェコの産業貿易省はドイツの教育研究省と2016年2月に両国の連携に向けた覚書を交わしている。その一環として、Mařík氏が所長を務めるCIIRCにテストベッドを設置することが決まった。このテストベッドでは、模擬的な生産ラインでさまざまなメーカーの工作機械や協働ロボット、無人搬送車(AGV:Automated Guided Vehicle)を稼働させ、インダストリー4.0に対応したITシステムとの連携を検証するほか、ドイツ・ザールブリュッケン市のドイツ人工知能研究センター(DFKI)のテストベッドともつなげる。実証実験には、ドイツSiemens社やチェコSkoda Auto社(ドイツVolkswagen社傘下の自動車メーカー)、チェコの中小企業などが参加する予定で、現在はテストベッドの建設を進めている。

 ただし、チェコではドイツ以外との連携も探っており、日本もその有力候補だという。2017年3月には、チェコ産業貿易省傘下のビジネス・投資開発庁であるチェコインベストと日本貿易振興機構が覚書を交わした。今後は両国の企業や研究機関が共同で、ロボットに関するプロジェクトを実施していく予定だ。

CIIRCに設置されるテストベッド
CIIRCに設置されるテストベッド
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