スマート工場の「スマート」には多くの意味が含まれているが、その1つに「知能化」がある。従来は決められた通りにしか動かなかった設備が、状況に応じて自律的に動くようになる。それによって、生産性や品質が向上するだけではなく、マス・カスタマイゼーションのような新しいビジネスモデルに踏み出せる。それこそがスマート工場で目指す将来像だ。そして、知能化の切り札と目されているのが人工知能(AI)である。

 工場の設備をAIで知能化するというアイデアは、決して目新しくない。そのための技術もそろいつつある。問題は、どう実現するかということだった。その解決に向けていち早く動き出したのが、ルネサス エレクトロニクスだ。同社はさまざまな分野のエンドポイント(末端)にAIを実装するための「e-AIソリューション」を提唱し、その重点分野の1つとして工場を挙げている(関連記事)。

 同社はかねて、生産子会社であるルネサス セミコンダクタ マニュファクチュアリングの那珂工場でAIを試験的に活用し、顧客に提供するための準備を進めてきた(関連記事)。今回のe-AIソリューションの提唱は、実証の段階が終わり、実用の段階に入ることを意味する。

ルネサス エレクトロニクス代表取締役兼CEOの呉文精氏
ルネサス エレクトロニクス代表取締役兼CEOの呉文精氏
2017年4月11日に開催したプライベートイベント「Renesas DevCon Japan 2017」でe-AIソリューションを発表した。
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 e-AIは、embedded-Artificial Intelligenceを略したもの。文字通り、末端の組み込み機器にAIを搭載するというコンセプトだ。生産現場の例でいえば、センサーやアクチュエーターといった機器を制御しているコントローラーなどのMCU/MPUに、ディープラーニングによる学習済みのニューラルネットを手軽に実装できるようにするという(関連記事)。

 知能化の手段は、AIだけではない。それでもルネサス エレクトロニクスがAIを前面に押し出してきたのは、AIに懸ける期待が大きいからだ。「もっと高度なことを実現しようとすると、ロジックを積み立てていく従来の手法だけでは限界がある。一歩先に行くためには、AIが欠かせない」と、同社代表取締役兼CEOの呉文精氏はAI活用の意義を語る。

 スマート化に向けて、あまねく行き渡ろうとしているAI。ルネサス エレクトロニクスはMCU/MPUを中心としたソリューションでその“受け皿”になろうというわけだ。