本連載は、2016年2月9日発行の『知財戦略のススメ コモディティ化する時代に競争優位を築く』(日経BP社)の第1章から抜粋して編集したものです。保有している知的財産を最大限に生かして、ビジネスの強みを生み出すための方策と最新事例を、数多くの実績を上げている法律事務所と会計事務所の視点から、ビジネスパーソンの目線と価値観に合わせてわかりやすく解説します。

 前回(「知財戦略の策定は対象知財のステージ確認から(第4回)」)は、検討対象とする事業の知財ステージを確認したうえで、製品・サービスのコモディティ化を遅らせる以下の方法を提示した。

 製品の技術的な高度性を作り出す特許以外の要因(α)を特定し、これを徹底的に機密管理することによってコモディティ化を遅らせる。

 連載の最後となる今回は、特許以外の方法で市場を支配することにより、「ビジネスで競合他社に勝つ」方法を提示する。

 多くの国において特許出願件数は年々増加している。いわゆる世界特許、PCT 出願も2004 年には2 万件弱だったが、2013 年には4 万件を超えた(図1-8)。これに対して、日本の特許出願は、2005 年の42 万件をピークに年々減少を続け、2013 年には32 万件になった(図1-9)。つまり、この10年弱で3/4になってしまったのである。

 一説によればリーマンショックに続いての東日本大震災の発生という、経済に大きな影響を及ぼす大事件が、出願件数減少の要因になったといわれている。

【図1-8】PCT出願(国際出願)件数の推移
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【図1-8】PCT出願(国際出願)件数の推移
【図1-9】特許出願件数の推移(国内・出願年別)
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【図1-9】特許出願件数の推移(国内・出願年別)
 しかし、これらの経済的要因が一段落したといわれる2012年以降も出願件数が回復していない。より説得力のある説明は、多くの製品分野において知財ステージII(成熟期)の後半や知財ステージIII(衰退期)に突入し、特許による市場支配が難しくなったというものだ。そのため、日本企業は、特許に資金を振り向けるよりも、α(特許以外であって、製品の技術的な高度性を作り出す要因)の部分を特定してブラックボックス化し、技術のコモディティ化を阻止・遅延する戦略に転じてきているという説明である。

 この仮説が正しければ、わが国における特許出願数減少は構造的なものである。一部の識者が論じるような知財意識の鈍化であるとか、わが国における特許制度や裁判制度が使いにくいといった理由は補充的なものであろう。