本連載は、2016年2月9日発行の『知財戦略のススメ コモディティ化する時代に競争優位を築く』(日経BP社)の第1章から抜粋して編集したものです。保有している知的財産を最大限に生かして、ビジネスの強みを生み出すための方策と最新事例を、数多くの実績を上げている法律事務所と会計事務所の視点から、ビジネスパーソンの目線と価値観に合わせてわかりやすく解説します。
液晶パネル(LCD)、DVD プレイヤー、リチウムイオン2次電池、カーナビゲーションシステム。一見関係ない製品群を並べているように思えるかもしれないが、これらには1つの共通点がある。かつて日本企業が技術開発で世界をリードし、市場を立ち上げ、一時は世界市場シェアをほぼ独占したものばかりだ。実はもう1つ共通点がある。それは技術経営(MOT)の第一人者である小川紘一氏が示した、MOT を学ぶ者ならば誰もが知る図の中に明確に現れている(図1-1)。これらの製品群はいずれも、日本企業が一時的に市場をほぼ独占した後、数年から10 年という短期間で市場シェアを急激に失い、その後のアジア勢との競合で苦戦を強いられたものだ。カーナビはその最たる製品であり、2003 年には日本企業の製品の占有率は100%、独占状態だったものが、わずか4 年後の2007 年には20%程度にまで落ち込んでしまった。
こうした現象は、一般には以下のように理解されることが多い。これらの製品群に関わっていた日本企業は、技術開発では圧倒的な力を示したが、特許戦略などそのシェアを守るための手当をしていなかったのだと。しかし実態は異なる。2015 年3 月時点のカーナビの国内における販売シェアリストを見ると、第1位のパイオニア以下、ケンウッド、パナソニック、富士通テン、三菱電機とそうそうたる大企業が名前を連ねている。少なくとも知財に関して無頓着な企業は1 社たりともない。
これらの企業がシェア低下に見舞われた2003 年当時の日欧米の特許出願トップ10 は表1-1 のとおりである。見てわかるとおり、日本市場はもちろんのこと、欧米市場においても日本の企業の多くが名前を連ねている。
この事実を前提にすると、カーナビにおいては、特許戦略をきちんと施行していたにもかかわらずシェアが低下したということになる。特許の取得はシェアの獲得維持に役立つと信じてきたのに、それは誤りだったのだろうか。本連載は、「シェアを守る」という知財の効能を信じてきた人からすれば衝撃的な事実、つまり、「知財戦略には適用限界が存在するのではないか」という仮説から解説を始める。これこそが正しい現状認識だからだ。