野口 宏太=経営共創基盤(IGPI)マネジャー
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野口 宏太=経営共創基盤(IGPI)マネジャー
三井 喬士=経営共創基盤(IGPI)マネジャー
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三井 喬士=経営共創基盤(IGPI)マネジャー
 「コストの8割以上は設計段階で決まる。そのため、開発購買が重要だ」──。そう唱えられて久しい。分かってはいるが、どうしても設計段階で想定していなかったコストが発生する。これまでのコラムで、戦略を立案して実行しただけでは勝ち残れないことや、業務プロセスごとに「武器」が必要であることについて述べてきた。その上で、設計開発の武器について具体的に説明した。今回は、設計と並び上流段階でコストや品質の鍵を握る「調達の武器」に焦点を当てる。

 利益を出す力(=稼ぐ力)という視点で調達を考えると、調達の武器とは、QCD(品質、コスト、納期) のうち、品質と納期を維持したまま、コスト(調達コスト)を低減する力である。業務プロセスごとに武器を身に付ける必要性と、どのような武器を身に付けていくべきかについてこれから紐解いていこう。

調達の武器とは?

 自動車業界を取り巻く環境の変化に対し、自動車メーカーが対応してきた取り組みの1つにモジュール化の推進がある。これまでも述べてきた通り、自動車部品メーカーにとっては、ひとたび受注すれば長期的な安定した取り引きを実現するチャンスである。

 一方で、長期的に安定した取り引きを望む複数の自動車部品メーカーが競い合うため、厳しい価格競争が展開される。加えて、長期に渡って自動車メーカーからの売価ダウンの要求に応え続けなければならないという苦しさもある。従って、量産前のコストの造り込みや、量産以降の継続的なコストダウンが重要だ。自動車部品メーカーにとって、製品ライフサイクル全域に渡る継続的なコストダウンは、より利益を創出するための「Nice to have(あると便利)」な活動ではなく、勝ち残るための「Must(必須)」の活動なのである。

 皆さんは、コストダウン活動を行う際に、次のような経験をしたことはないだろうか。

・同一部品の調達量を増やしてコストダウンしたいが、部品仕様のバリエーションが増え続けており、ボリュームメリットが出せなかった。
・調達部門で検討していたコストダウン施策を開発部門が把握しておらず、従来部品で出図されたため、施策の織り込みができなかった。
・部品メーカーの切り替えを検討していたが、営業部門と情報共有していなかった。そのため、部品メーカーの切り換えについて自動車メーカーの承認を得られず、切り換えが大幅に遅れた。
・グローバルに生産拠点を持つが、拠点ごとに独自のコストダウン活動をしており、コストダウン効果が限定的になってしまう。

 こうしたことでは、調達コストダウンによる利益の創出は難しい。一般に、調達コストダウンは調達部門の仕事と考えがちだ。ところが、調達部門のみでできるコストダウンは、部品メーカーとの単純な値引き交渉など効果が限られる。部品仕様の変更を伴うコストダウンの場合は開発部門と、仕様変更や部品メーカーの切り換えを伴うコストダウンの場合は営業部門と課題を抽出する。こうして各部門との間で課題を1つずつ解決していく必要がある。

 つまり、コストダウン効果を最大化するには、営業部門や開発の関連部門と連携した上で、グローバルに展開していくことが大切なのだ。そのためには、調達部品ごとにどのような方針でコストダウンし、どの製品モデルにどのタイミングでコストダウン部品を織り込んでいくかを「見える化」しなければならない。さらにそれを関連部門やグローバルで共有し、共通認識を持っておく必要がある。