野口 宏太=経営共創基盤(IGPI)マネジャー
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野口 宏太=経営共創基盤(IGPI)マネジャー
三井 喬士=経営共創基盤(IGPI)マネジャー
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三井 喬士=経営共創基盤(IGPI)マネジャー
 戦略実行のためには機能別の「武器」が必要である。このコラムで何度もそう書いてきた。そして、開発の「武器」となる「要件ばらし」について、前回のコラムで解説した。繰り返しになるが、要件ばらしは、自動車メーカーやエンドユーザーから受け取る抽象的で複数の解釈ができる曖昧な要求を、分類軸やツリー形式によって体系的に整理して具体化することだ。通常は次のようなステップで進めていく( 図1)。

①将来動向・変化の予測
②要求の先読み
③要求から要件への具体化
④要件の付加価値評価

①将来動向・変化の予測
 市場や顧客、競合、自社の視点で、数年後の変化を予測する。要求情報を収集する際に陥りやすい「わな」としては、顧客である自動車メーカーのみを対象に要求を整理してしまう、ということがある。確かに、取引先である自動車メーカーからの要求を整理することは妥当だと思うかもしれない。しかし、最も重要なことは、その要求に至った背景を理解することだ。

 何度も言うように、自動車メーカーからの要求は複数の解釈ができる表現が多い。だが、その背景まで把握することにより、相手の意図を理解して誤まった解釈を防ぐことができる。自動車業界の動向や販売地域の法規制の変更、競合となる自動車メーカーの動向などを把握することで、後述する要求の先読みにつなげていくことが肝要だ。

図1●要求分析のアプローチ
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図1●要求分析のアプローチ

  図1—①に、将来動向の予測項目の例を挙げた。これは、本コラムの第7回でも紹介した、市場や顧客、競合、自社との関係性から着目すべき項目を抜粋し、予測項目としてまとめたものだ。これらの項目に対し、自社の製品が量産される時期を想定して、現在からの変化点を仮説として予測する。

②要求の先読み
 ①で予測した数年後の動向変化を使い、要求抽出用のマトリクス(要求分析表)を準備して、要求の先読みを行う(図1—②)。要求分析表は、縦軸が将来予測の項目、横軸が要求を分類する項目になるように作成する。将来予測した項目を見ているだけでは、実際には要求をうまく抽出できない。そこで、開発チームのブレインストーミング時に要求を発想する手助けとなるように、 図2に示す要求分類項目を参考にする。

 要求分類項目は本来、要求を分類・整理する際に使用する。しかし、抽出時に参照することで、思考を切り替えるきっかけにもなる。加えて、幅広い視点から要求を抽出することも可能になる。要求分析表を使って要求を抽出すると、将来予測の項目との関係がマトリクス上で明確になり、要求を先読みした前提条件や根拠として紐付けておくことができる。これは、自動車メーカーへ技術的に先行した提案を行う際にも非常に有効だ。

図2●要求分類の例
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図2●要求分類の例

③要求から要件への具体化
 抽出した要求を要件として具体化する(図1—③)。要求を抽出しただけでは抽象度が高過ぎるため、仕様値や目標値など定量値で表現できる粒度まで具体化する。要件を具体化する際には、ツリー形式で構造化する。理由は、抽出した要求と、具体化した要件との関係性が明確になるからだ。要求と要件の不整合や要件の重複、不足があれば補正する。

④要件の付加価値評価
 具体化した要件に対し、付加価値評価、すなわちどの要件を優先して開発すべきかを判断するために重み付けを行う。付加価値評価の指標の例としては、必要性や優位性、市場期待度などがあり、複数の視点から評価する(図1—④)。

・必要性:自動車メーカーにとって必要とされる要件か?
・優位性:競合より先行していて、優位性がある要件か?
・市場期待度:エンドユーザーの多くが期待している要件か?

 図3に示すように、各視点で5段階程度のレベル分けを設定し、評価して優先度を考察する。要件の優先度は会社や立場によって認識が異なることが多いため、数値で表現することにより誤った解釈を防ぐ。加えて、議論などでの「空中戦」を避けることも可能になる。

図3●付加価値評価価指標の例
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図3●付加価値評価価指標の例