野口 宏太=経営共創基盤(IGPI)マネジャー
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野口 宏太=経営共創基盤(IGPI)マネジャー
三井 喬士=経営共創基盤(IGPI)マネジャー
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三井 喬士=経営共創基盤(IGPI)マネジャー

フロントローディングで仕様提案

 自動車部品メーカーにとって喫緊の課題は「ものづくりレベル」を高めることであると、前回と前々回で解説した。具体的には、自動車メーカーから仕様の指示を受けて動く「ものづくりレベル1(以下、レベル1)」にとどまっていてはいけない。自動車メーカーに自ら仕様を提案できる「ものづくりレベル2(以下、レベル2)」にステップアップすることが大切だ(図1)。そして、その解決策が「フロントローディング」である、ということを説明してきた。

 しかし、フロントローディングを単に「開発初期にリソースを集中させること」と思っていると、うまく機能しない。実際、フロントローディングを実行しようとして頓挫するケースは枚挙にいとまがない。代表的な失敗事例は次のような感じだ。

・製造部門が関与せずにフロントローディングを実施したため、生産性について検討しないままの仕様で自動車メーカーと合意してしまった。
・フロントローディングを適用したモデルの開発は順調だったが、他のモデルで不具合が発生してリソースが不足。結果、フロントローディングがいつの間にか立ち消えになってしまった。
・自社の都合で開発をスタートさせたが、自動車メーカーの方で日程が合致する機種開発がなかった。

 そこで今回は、自動車部品メーカーがフロントローディングを確実に実行できる、戦略的な進め方について解説したい。

自社を知り、顧客を知って提案力を高める

 ものづくりレベルを「レベル2」に高めてフロントローディングを実施するにはまず、10年後も戦いに勝って稼ぎ続けられる戦略の策定が必要になる。戦略に基づいて部品や各部門のロードマップを描き、自動車メーカーに対する部品コスト見積もり依頼書(RFQ)が発行される前の売り込み計画に落とし込む。そして、これを使って自動車メーカーに対して仕様の提案を仕掛けていくのだ。では、ステップを追ってひもといていこう。

 ステップ1:まず「自社を知る」。既存の自社製品の性能面やものづくり面での課題、各部門の課題を明確にして関連部門で共有するのだ。その上で各部門の今後の戦略やロードマップを作成し、過去から未来へとつなげていく。こうして初めて事業戦略に基づいた製品ロードマップが浮かび上がってくる。ここで大切なことは、その製品ロードマップを実現するために必要な「生産戦略」「技術ロードマップ」という具合に、製品と戦略、ロードマップがそれぞれ有機的につながっていることを意識しながら全体像を描くことだ。

 ステップ2:次に「顧客を知る」。言い換えれば、自動車部品メーカーの部品が属する車両システム(例えば、エンジンシステムなど)について、顧客の情報を入手することだ。具体的には開発プロセスや責任部門、システムロードマップ、機種開発の日程といった情報をしっかりと捉えておくことが求められる。

 ステップ3:最後に「つなげる」。ステップ1で得た自社の情報とステップ2で得た顧客の情報をつなぐのがこの段階だ。顧客のシステムロードマップや機種開発の日程、自社の部品ロードマップなどから顧客が求めるであろう部品仕様を選定する。顧客の開発日程に合わせて自社のロードマップも調整するなど、相手に合わせて戦略を微修正することも求められる。

図1●自動車部品メーカーのものづくりのレベル
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図1●自動車部品メーカーのものづくりのレベル