第4回では、自動車ビジネスの本質的価値(コモディティ化)の可能性について考察した。今回は、よりビジネスとしての経済性の視点から、自動車業界で起こりつつある勝ちパターンの二極化のトレンドについて考えてみたい。

規模の視点:1000万台クラブと100万台クラブ

 自動車業界における生き残りに必要な事業規模は、業界再編が起こるたびにそのハードルが上がってきた。1990年代後半に起こったドイツDaimler社と米Chrysler社の統合や、米GM社や米Ford Motor社による日系メーカーを含めたグローバルな系列化の動きの際には、400万台が生き残りの目安とされていた。リーマンショック後の再編にあたっては、1000万台が一つの目安となっている。

 現在、グローバルな主要自動車メーカーは、生産台数で100万台規模のグループと数百万台のグループ、1000万台のグループの三つにほぼ分化しつつある(図1)。各グループの収益性を見ると、1000万台規模のグループ(=1000万台クラブ)と100万台規模のグループ(100万台クラブ)が比較的成功しているようにみえる。日本企業で言えば前者がトヨタ自動車であり、後者がマツダや富士重工業だろう。

図1 世界主要自動車メーカーの販売規模と販売単価の関係
図1 世界主要自動車メーカーの販売規模と販売単価の関係
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 この二つのグループは、ある意味で異なるビジネスモデルと言えるほど、その優位性の発揮の仕方が異なる(図2)。1000万台クラブでは、複数の独立したブランドを持ちながら、商品ラインナップもフルラインかつ地域別にカスタマイズしたモデルを投入している。その商品を支えるパワートレインや自動運転につながる安全・安心系の機能や要素技術に関しても、その投資余力を使って全方位的に自前で開発するのが基本的な技術戦略となる。

図2 自動車ビジネスにおける勝ちパターン
図2 自動車ビジネスにおける勝ちパターン
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 そのためには、これだけの複雑性を持つ自社のビジネスを効率良くマネジメントするための独自手段、たとえばTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)やMQB(横置きエンジン車用モジュールマトリックス)に代表されるような次世代型プラットフォーム戦略の導入やトヨタにおけるプリウスのリコール(無償回収・修理)、昨今のドイツVolkswagen(VW)社の排ガス不正問題に代表されるような巨大組織を束ねる組織ガバナンス・リスクマネジメント能力が成功要件となる。