用語解説

 nmレベルまたは分子レベルで有機成分と無機成分を混ぜ合わせることにより,両者のメリットを相乗的に高めることのできる材料のこと。  

 有機成分と無機成分が複合化した実用材料として代表的なのはFRP(繊維強化プラスチック)である。有機成分が柔軟性・成形性を,無機成分が強度を発現しているが,混合することによってもともと有機成分や無機成分が持っていた特性は低下し,中庸な特性になることが多い。これに対して,無機・有機ハイブリッド材料は,こうした機械的な複合化ではなく,nmレベルで複合化することにより,両社の持つ特性や機能を単なる合計以上に高めることを狙う。  


【図1】シロキサン系無機・有機ハイブリッド材料の分子構造の一例。分子鎖の骨格はシリカ(-Si-O-Si-)で,それに有機成分としてメチル基(-CH3)の付いた成分が共有結合で結びついている

 無機・有機ハイブリッド材料の代表例が,ポリシロキサンとポリホスファゼンである。ポリシロキサンは主鎖としてシリカ(-Si-O-Si-)結合を持ち,それに炭素を持つ有機成分が結合している(図1)。ポリホスファゼンの場合は主鎖が窒素とリンからなる。有機成分と無機成分はこの場合,共有結合で結びついており,nmレベルの相互作用をすると考えられている。  

 ポリシロキサン系で見ると,シリカなどの無機成分は3次元的に-Si-O-Si-結合が広がった剛直な構造を持つ。このため高い耐熱性,強度を発現する。これに対して有機成分は炭素と水素が中心の高分子鎖を構成する。高分子鎖は比較的自由度が高く柔軟性と成形性を付与する。無機・有機ハイブリッド材料はこの両者の成分を各々の特性を殺さないように最適な構造で組み合わせることを狙っている。  

 こうした無機・有機ハイブリッド材料の理想的な姿は自然界に見出すことができる。竹やケイ藻などある種の植物ではシリカを生成することが確認されており,植物が持つ強度,靭性,しなやかさなどは,主成分である有機高分子と無機成分が相互作用により発現しているのではないかと考えられている。こうした自然界に学ぶことによって,理想的な有機・無機ハイブリッド材料を創成しようという研究も始まっている。  

供給・開発状況
2005/10/07

ポリシロキサン系が電子部品向けに実用化へ

 ポリシロキサン系の無機・有機ハイブリッド材料のサンプル出荷が始まり,電子部品向けに用途開拓が活発化している。

 例えば,鈴鹿富士ゼロックスは,テトラエトキシシラン(TEOS)とポリジメチルシロキサン(PDMS)を出発原料として,ゾル・ゲル法により,有機成分であるメチル基(-CH3)と無機成分であるシリカ結合(-Si-O-Si-)が複合化した材料を開発,サンプル出荷を開始した。

 無機成分は3次元状に広がりクラスターを形成し,有機成分の鎖がその周りを取り囲むように存在すると考えられている。無機成分により200℃を超す耐熱性を発現し,有機成分よってゴムのような柔軟性を持たせることができる。また,ゾル状態でアルミナなどの熱伝導性の高いフィラーを微分散させることが可能で,これにより放熱性などの特性を付与することもできる。

 用途としては,電子部品の放熱部材が考えられている(図2)。マイクロプロセサなどの電子部品と金属放熱部の間に挟む放熱シートとしては密着性を持たせるために,柔軟なシリコーンゴムが使われてきたが性能面で問題があった。ポリシロキサン系の無機・有機ハイブリッド材料を使うことにより,高い熱伝導性に加えて耐熱性,柔軟性などの特性も高いことから実用化の検討が進められている。


 

 

ニュース・関連リンク

【CEATEC】鈴鹿富士ゼロックス,「次世代」の無機・有機ハイブリッド材料を開発

(Tech-On!,2005年10月4日)

<第54回 高分子学会年次大会報告12>東京医科歯科大,ナノゲル-無機ハイブリッドを創製

(Tech-On!,2005年5月31日)