用語解説

 イオンを伝導できる材料のことで,電解質とも呼ばれる。ここでは,近年注目される燃料電池向けの電解質膜の材料について解説する。

 燃料電池のいくつかのタイプは,電解質膜にどんな材料を使うかで決まる。工業用途で使われている燃料電池は,リン酸型(PAFC),溶融炭酸塩型(MCFC),固体酸化物型(SOFC),固体高分子型(PEFC)の4種である。

パーフルオロスルホン酸系ポリマの分子構造。「テフロン」で知られるフッ素系主鎖(-CF2CF2-)に,モノマ合成上必要な「連結器」部分とスルホン酸(-SO3H)の付け根にあたるCF2ユニット2個が結合している(図は旭化成が作成)

 リン酸型燃料電池には,電解質としてリン酸水溶液(伝導するイオンはHで,200℃で動作)が用いられる。溶融炭酸塩型にはリチウム・ナトリウム系炭酸塩(伝導するイオンはCO32−で,650℃~700℃で動作),固体酸化物型にはジルコニア系セラミックス(伝導するイオンはO2で,900℃~1000℃で動作),固体高分子型にはパーフルオロスルホン酸系ポリマー(伝導するイオンはHで,70℃~90℃で動作)が使われる。

 このうち,自動車や携帯電子機器への応用で注目されているPEFCを例に,そこで使われるパーフルオロスルホン酸系ポリマ(図)の伝導原理を説明したい。まず,同ポリマを水の存在下に置くと,ポリマ中のスルホン酸(-SO3H)がイオン化(-SO3-)して親水性を示す。これは,スルホン酸(-SO3H)の付け根にあたるCF2ユニットが電子を引っ張り,それによって電離するからである。次に,イオン化した分子が集合してクラスタが生成する。これがポリマの中でHの通り道のように振る舞うのである。パーフルオロスルホン酸系ポリマは,電解質膜に要求されるイオン透過性,耐酸化性,耐熱性を兼ね備えるものとしては理想的な材料だといわれており,広く使われている。

供給・開発状況
2005/09/16

《供給動向》膜単体,MEAなど供給形態が多様化

 PEFC向けの主流であるパーフルオロスルホン酸ポリマ系電解質膜の最大手は米デュポン社である。その商品名「ナフィオン」は一般名詞的に使われるほど知名度が高い。デュポン社は,米Fayettevilleに「大量生産と低コスト化を可能にする」プラントを持っており,「200万~300万m2の出荷量があれば,30米ドル/m2にできる」とする。しかし,その道のりはまだ遠いと言われている。次いで,米W.LGore&Associates社,旭硝子,旭化成が主な供給メーカーである。

 シェアとしては,2000年以前はデュポン社が圧倒的だったものの,近年米Gore社が追い上げていると見られる。日本では旭硝子,旭化成も徐々にシェアを上げているもよう。

 供給形態としては,電解質を単体として供給する形態のほか,電解質膜の両面に触媒を塗布したMEA(膜・電極複合体)の形で供給するケースも多い。MEAの形で出荷すると,電解質膜メーカーとしてはより付加価値が高まり,使う側にとっても工程が削減できるメリットがある。さらには,電極と電解質膜に加えて,拡散層(カソード側,アノード側)も積層した5層MEAの供給も始まっている。


《開発状況》新フッ素系,炭化水素系など新素材の提案盛ん

 PEFCは家庭用コージェネレーションや自動車,携帯機器向けに実用特性を評価するフェーズに入っている。しかし,長期運転試験時にフッ素系ポリマの化学劣化が起こることが明らかになり,改善が望まれている。原因としては,活性酸素ラジカルの発生による分子鎖への攻撃・分解と電極周辺で局部的に高温になることによる熱分解などが考えられている。これを改善するために,例えば旭化成は熱分解温度を向上できる新構造のフッ素系ポリマを開発している。

 一方,携帯電子機器に使われるダイレクトメタノール方式の燃料電池(DMFC)ではメタノールクロスオーバー(燃料極側から空気極側へメタノールが透過する現象)が問題になっており,それを低減する炭化水素系電解質膜の開発が活発になっている。2005年1月19日から東京ビッグサイトで開催された「第1回国際燃料電池展」では,メタノールクロスオーバーを低減する炭化水素系電解質膜の出展が相次いだ。日立化成工業(図),トクヤマ,三井化学,日東電工,東亞合成が出展した。米国でも,PolyFuel社が炭化水素系電解質を開発し「ナフィオンに比べてメタノールのクロスオーバー現象を1/3に,水の透過を1/2に抑えた」としている。

ニュース・関連リンク

旭化成,燃料電池向けに耐熱性優れる「次世代」フッ素系ポリマー電解質を開発

(Tech-On!,2005年9月14日)

PolyFuel社,既存の製造設備を利用できる燃料電池用の炭化水素系電解質膜を発表

(Tech-On!,2005年9月14日)