用語解説

 プロピレン(CH3CH=CH2)をモノマーとして重合させた結晶性樹脂。ビニル鎖(-CH2-CH2-)に一つおきにメチル基(-CH3)が付いた分子構造をしている。比較的安価で,軽量(密度0.90~0.91),高融点(160~170℃)で,成形加工性にも優れることから,家電製品,自動車部品,食品包装フィルム,雑貨などに広く使われている。

 プロピレンを重合すると,一つおきにあるメチル基(-CH3)の枝が,(1)立体的に一方向にのみ出る(アイソタクチックポリプロピレン),(2)互い違いに出る(シンジオタクチックポリプロピレン),(3)全く無秩序に出る場合(アタクチックポリプロピレン)---の三つの種類のポリマーができあがる。現状で,工業材料として使われているのは,アイソタクチックポリプロピレンである。

 アイソタクチックポリプロピレンを合成する反応を「アイソタクチック重合」と呼び,チーグラー・ナッタ触媒によって可能になった。チーグラー・ナッタ触媒は,初期のTiCl3からMgCl2担持型へと進化し,さらに改良が進んでポリプロピレン材料の性能向上に寄与している。さらに近年,重合活性点が均一なメタロセン触媒が登場し,より高性能なポリプロピレン材料を開発しようとする検討が進んでいる。

分子組成,各種フィラーの添加で
多様なグレード展開

 分子の組成により,ホモポリマー(単独重合体),共重合体であるランダムコポリマー,ブロックコポリマーに分類できる。一般にホモポリマーは高剛性,光沢性,着色性に優れる。ランダムコポリマーは透明性が高く,ブロックコポリマーはホモポリマーよりも耐衝撃強度が優れているという特徴がある。

 ポリマーに様々なフィラーを添加することによって,各種グレードの開発が盛んである。耐熱性グレードや高強度・低そりグレード,高剛性・高流動性グレードなど,幅広い展開を見せている。例えば,高強度・低そりグレードはガラス繊維・無機フィラーを混ぜることで実現した。長繊維のガラス繊維を添加して剛性や耐衝撃性を大幅に高めたグレードもある。また,ポリプロピレンにゴム成分を加えることによって弾性を持たせたTPO(オレフィン系熱可塑性エラストマー)も開発され,自動車内装部品など向けに用途が広がっている。

供給・開発状況

2006/06/29

リストラの嵐を経て,4社に統合

 1993年には14社あった日本のポリプロピレンメーカーは,何回かのリストラを経て,2005年には4社に統合された。2005年には三井化学と出光興産のポリプロピレン事業部門が統合して,プライムポリマーが設立され,それに加えて,日本ポリプロ,住友化学,サンアロマーの4社体制となった。最大手はプライムポリマーで年産136万tの能力を持つ。次いで,日本ポリプロが108万tであり,日本で100万t以上の生産能力を持つメーカーが2社出現することになった。

 原油価格の高騰によりポリプロピレンメーカー各社は2004年より数度にわたる値上げを断行した。それにもかかわらず需要は順調に伸びており,2005年には生産量は4社あわせて300万tを超えたと見られている。

 各用途のうち最も注目されるのが自動車分野である。自動車の樹脂部品のうち,ポリプロピレン系樹脂が約半分を占めており,自動車用樹脂の代表格となった。多用されているのは,プロピレンとエチレンなどをブロック共重合したタイプ(インパクトコポリマー)であり,これに無機フィラーやエラストマーをコンパウンドして耐衝撃性と剛性のバランスをとったグレードが自動車のバンパーやインストルメントパネルに採用されている。

 このためポリプロピレンメーカー各社は,自動車向けグレードの増産を進めている。例えば,プライムポリマーと三井化学は,自動車向けポリプロピレンの生産能力を増強すると発表した。北米とアジアで1年間当たりの生産能力を合計6万3000t引き上げ,30万tとする。 両社は日本の自動車メーカーの競争力が高いことから,2007年度までに年率10 %で日本車の生産台数が伸びると判断。その需要の拡大を見込み,PPの増強に踏み切ることにしたのである。

 自動車部品の中でもとりわけ注目されている部品が,フロントエンド,コックピット,ドアなどのモジュールの構造体である。高い剛性が求められるために,長繊維などのガラス繊維で強化したグレードが採用されることが多い。

三菱自動車「i」の
フロントエンドモジュールに採用


【図1】三菱自動車「i」に供給したFEM(クリックで拡大表示)
 自動車モジュールにポリプロピレンを採用した最近の例としては,三菱自動車の新型軽自動車「i」のフロントエンドモジュール(FEM)がある(図1)。デンソーが供給している。FEMは、ラジエータとエアコン用コンデンサ,ウオッシャタンク,電動ファン,モータ,ダクトを骨組みであるキャリア(構造体)と一体化した。一体化していない従来構造と比べて体積が約30%,重量が約20%低減し,コストも削減できたという。


【図2】FEMの構成(クリックで拡大表示)
 キャリアには,従来のガラス繊維強化ポリプロピレンよりも比重の小さい樹脂を採用することで軽量化し,形状を工夫して強度を確保した。従来はヘッドライトを裏から支えるステー部がキャリアに必要だったが、キャリアとフェンダの周辺部だけでヘッドライトを固定できる構造とし,キャリアを小型化した。

三井化学,ナノレベルで構造制御した
オレフィン系エラストマーを発売

 材料開発面で注目されるのは,ナノテクノロジーを使うことによる性能向上の試みである。例えば三井化学は,結晶部と非晶部をnmオーダーで構造制御することにより,耐熱性,耐傷つき性,ゴム弾性をすべて向上させたオレフィン(ポリプロピレン)系エラストマー「ノティオ」を開発,2005年11月末より発売した。透明性にも優れることから,電子・光学分野で使う各種保護フィルムやシール材への用途を見込んでいる。また,PPの改質材として使うことにより,透明性を損なわずに各特性を向上できる。特に,食品包装材の高機能フィルム,自動車や建材向けの表皮材,産業用のチューブなどの用途を開拓するという。


【図3】ノティオの「ナノネットワーク構造」の模式図。左は既存のポリオレフィン系エラストマー(クリックで拡大表示)
 特性向上を達成できたのは,従来のオレフィン系熱可塑性エラストマーが非晶性の部分が「海」,結晶性の部分が「島」の海島構造だったのに対し,結晶部と非晶部の「ナノネットワーク構造」を持たせることに成功したためだ(図3)。結晶部が「島」ではなく10~50nmレベルのらせん状の結晶単位が互いに連結して「網」が全体を覆っているような構造を持たせた。剛直な網が全体を「規制」することで高い耐熱性を持たせることができた。

 通常,結晶化度を高めて耐熱性を上げるとゴム弾性は下がる方向に働くが,「ノティオ」では,結晶部の内部に非晶部をnmレベルで組み込み,それが周りをを取り囲む非晶部と連結する,という巧みな構造を作り出すことで両立させた。さらにこの非晶部では,分子同士が絡み合って耐傷つき性を上げている。

ニュース・関連リンク

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