用語解説

 熱可塑性で結晶性のポリエステル系プラスチックで,5大汎用エンプラの一つである。製法は,テレフタル酸(TPA)またはテレフタル酸ジメチル(DMT)と1,4-ブタンジオールを重縮合して合成したポリマーをベースとして,各種の添加剤をコンパウンドして得られる。非強化系と強化系のグレードに大別される。最も一般的なグレードはガラス繊維で強化したもの。耐熱性,耐薬品性,電気特性,寸法安定性,成形性に優れ,難燃性も持たせやすいという特徴があり,電気・電子,自動車分野を中心に広く普及している。国内市場は10万t/年を超える。

 材料技術面の大きな課題は,低そりグレードの開発である。PBTは結晶性樹脂であり,代表的なガラス繊維強化グレードでは,成形時にガラス繊維が配向してそりが発生するためだ。このため各社は,ガラス繊維を部分的に配向が少ない無機フィラーに変更したり,非晶性ポリマーとアロイ化する,などの工夫を加えている。

 環境面での対策が求められているのも最近の特徴である。PBT樹脂は難燃グレードを多く持っており,そのほとんどが臭素系の難燃剤を使っている。臭素系難燃剤の一部は規制対象になっており,臭素含めたハロゲン系難燃剤そのものを使わない難燃グレードの開発が活発化している。また,リサイクル性を持たせることも重要であり,原料に遡ったリサイクル技術を開発する動きがある。

アジア地域で高い伸び

 PBT樹脂の用途として特に伸びているのが,自動車の電装部品や電機・電子部品,OA機器用の精密部品である。今後は,自動車の内外装部品やフィルムなどの分野に用途が広がるとみられる。とりわけ自動車や電機・電子業界では中国やASEAN地域での生産が増えていることから,アジア地域でのPBT樹脂の需要は,年率10%の成長が見込めると予測されている。

 国内のPBTメーカーと供給しているグレード名は,ウィンテックポリマー「ジュラネックス」,東レ「トレコン」,三菱エンジニアリングプラスチックス「ノバデュラン」,日本ジーイープラスチックス「バロックス」,三菱レイヨン「タフペット」,大日本インキ化学工業「プラナック」の6社である。海外メーカーとしては,欧米系のGE Plasitics,Ticona,DuPont,BASF, Bayerなどのほか,韓国・台湾,さらに最近では中国メーカーも参入しており,競争が激化している。

供給・開発状況

2006/08/25

ウィンテックポリマー,
ノンハロゲン系の 難燃PBT樹脂を開発

 ウィンテックポリマーとポリプラスチックスは,ノンハロゲン系難燃剤を使って,難燃性の規格であるUL規格で最高レベルの「V-0」(試験片厚さ0.8mm)を実現した難燃PBT樹脂の開発に成功した。WEEEやRoHSといった環境規制をクリアできる。

 トラッキング火災への耐性を示すCTIは600~400V(PLCランク0~1)。従来の標準的な難燃PBTが250~225V(PLCランクで2~3)だから,新シリーズは1~2ランクアップしたことになる。こうした耐トラッキング性の向上は,部品の電気火災安全性を高めるだけではなく,最終製品のコンパクト設計にも貢献するという。さらに,無着色品の色目は従来の難燃PBT樹脂と同等レベルの白さを実現。長時間UV光を当てたときに起きる黄変も大幅に抑えた。長期間UV光に曝される屋外でも屋内でも広く使える。

三菱エンプラ,
新規IEC規格に対応する 難燃PBT樹脂を開発

 三菱エンジニアプラスチックスは,国際電気標準会議(IEC)の新規規格に対応した難燃PBT樹脂「ノバデュラン5830GN6」シリーズを開発した。対応するのは,IEC60335-1第4版。冷蔵庫やエアコンなど,人の注意が行き届かない状態で動作して,0.2A以上の電流が流れる製品や部品を対象とした規格。 機械的な特性,耐熱性,寸法特性,流動性が従来の難燃PBTとほぼ同じ。

  そのため,現行材料と同じ成形機や金型,ほぼ同等の成形条件を適用できる。難燃剤としては臭素系のものを使用しているが,RoHS指令で定める特定難燃剤は使っていない。

 5830GN6は既に,耐トラッキング性(PTI)や赤熱電線発火特性(GWIT)を定めたドイツ電気技術者協会(VDE)規格を取得している。新材料のPTIは325Vで,GWITは800℃/0.03mmt,850℃/3mmt。一般の難燃PBTのPTIは200~250Vで,GWITは700℃前後だ。さらに,UL規格についても,難燃性と電気特性の基準を満たす。

米GE社,使用済みPETボトルを
原料とするPBT樹脂を事業化

 米GE社プラスチック部門は,PBT樹脂「Valox」およびPBT/PC(ポリカーボネート)アロイ「Xenoy」の新シリーズとして,使用済みPET(ポリエチレンテレフタレート)ボトルを原料の85%に使った自動車向けエンプラ「Valox iQ」と「Xenoy iQ」を発売すると発表した。石油を原料とする従来製品や、とうもろこしなどを原料とするバイオプラスチックよりも製造工程における二酸化炭素排出量やエネルギ消費量が少ないのが特徴。現在サンプル出荷中で,2006年の第4四半期に量産を始める計画である。


【図】「Valox iQ」の成形例。バンパー衝撃吸収部材とランプエクステンション(クリックで拡大表示)

 新PBTは,使用済みPET樹脂をそのままリサイクルするのではなく,粉砕してから一度中間材に戻し,この中間材から改めてPBT樹脂を製造する単なるリサイクルの場合には特性の劣化が問題になるが,今回の製法ならば石油から製造したPBTと材料特性はほぼ同等だという。

 用途としては、自動車のインストルメントパネルやバンパの衝撃吸収部材、コネクタ、ヘッドランプのエクステンション(ランプ反射板の周囲の化粧部材,図)などを有望視している。