用語解説

 透明性,耐衝撃性,耐熱性,寸法安定性,難燃性などの特性バランスに優れた非晶性プラスチック。分子構造としては,モノマがフェニルプロパンとカーボネートで構成され,フェニルプロパンが高い耐熱性と機械的性質を与え,カーボネートが成形性を高めている。汎用エンジニアリングプラスチックの中では唯一透明である。

 欠点は,アルカリや有機溶剤などに対する耐薬品性が劣ること,流動性が低いこと,外観部品として使った場合に表面が傷つきやすく,耐候性に劣ること,などだ。これらの欠点を補う新材料やコーティング法などの開発が活発化している。

透明フィルムや筐体向けに用途拡大

用途面では透明性であることを活かして,自動車のヘッドランプレンズ,液晶ディスプレイの各種フィルム,導光板,光ディスク基板などに使われている。また,建材などでは透明シート向けに多用されている塩ビが環境問題から問題視されていることから代替する動きがある。

 構造部材としては,パソコン,プリンタ,液晶テレビなどの筐体向けに用途が拡大している。筐体向けには,ガラス繊維強化グレードやPC/ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)などのアロイグレードが使われる。

供給・開発状況
2006/04/14

ポリカーボネートの需要好調,増産へ

 ポリカーボネートの需要としては,特に国内需要が好調な伸びを続けている。主要用途のデジタル家電の生産量が拡大したためである。特に,2004年にはアテネオリンピックの特需もあり25万9000tと前年比111%と二桁の伸びを示した。2005年も堅調に推移し30万tを超えたと見られている。世界需要は約260万tで,今後も1年間で7~8%ずつ成長するとみられている。

 こうした需要増に対応してポリカーボネートメーカーの増産計画が相次いでいる。例えば,三菱化学は,同社の黒崎事業所(北九州市)の製造設備を増強する。具体的には,ポリカーボネート樹脂製造設備と,樹脂の中間体であるジフェニル・カーボネート(DPC)製造設備を2008年3月に完成させる予定だ。それぞれの年間の生産能力は,6万tと10万tとなる。

 三菱化学は併せて,中国での生産量も増やす。中国の製造会社も黒崎事業所と同じく,2008年にはポリカーボネート樹脂が6万t/年,BPAが10万t/年の生産能力を備える計画だ。

 帝人もポリカーボネートのコンパウンドを中国で増産すると発表した。上海工場の製造能力を1万8000tから4万8000tに増強し,需要動向に応じ5万tに引き上げるという。中国に進出している日系家電メーカーへの供給能力を高めるのが狙いだ。

自動車外板分野で用途拡大


【図1】欧州向けの5ドア「Civic」のリアビュー(クリックで拡大表示)

 ポリカーボネートの用途として今後急拡大する可能性を秘めているのが自動車分野である。ヘッドランプレンズ,メータ盤,サンルーフなどには広く使われるようになった。加えて,ガラス製ウインドウの一部や外板部品向けに採用部位を広げようという試みが出てきた。比重がガラスの半分程度と軽く,自由曲面を作りやすいという特徴が期待されているからだ。

 例えばホンダは,バックドアを構成する透明外板部品にポリカーボネートを使った欧州向けの5ドア「Civic」を2006年1月に発売した(図1)。同部品は,「エクストラ・ウインドウ」と呼ばれ,スポイラーやハイマウント・ストップランプのレンズ部が一体成形されている。ホンダは実用化に当たって,ポリカーボネートの耐傷つき性や耐候性を向上するためのハードコート技術や複雑大物形状の成形技術に工夫を加えたという。


【図2】ポリカーボネートフィルム製サンルーフを採用した「Zafira」(クリックで拡大表示)

 またドイツOpel社は,2005年7月に発売したミニバン「Zafira」に,ポリカーボネート製フィルムをラミネートした構造のパノラマルーフを採用した(図2)。このポリカーボート製フィルムは顔料を染み込ませた着色層を持った多層構造であり,塗装レスなことから揮発性有機化合物(VOC)を必要としないという特徴がある。

流動性改善や新規アロイの研究進む

 ポリカーボネートの材料開発面では,欠点である流動性を改善する検討が進んでいる。例えば三菱レイヨンは,ポリカーボネートの透明性や耐熱性という利点を維持しながら流動性を高められる改質剤を開発した。この改質剤を使うことにより,射出成形の際に「せん断力によって溶融粘度の低い部分が伸ばされ,流動性が高まる」と同社は推定している。流動性に優れたタイプの改質剤Aと透明性に優れたタイプの改質剤Bの2種類があり,2005年10月から販売を開始した。

 ポリカーボネートは他のポリマーとアロイ化しやすいことからより特性の高いアロイを目指した開発も行われている。例えば東レは,異なる2種類の樹脂をアロイ化し,それぞれの樹脂の優れた特性だけを引き出すことができる技術「ナノアロイ技術(自己組織化ナノアロイ)」を開発した。この手法をポリカーボネートとPBT(ポリブチレンテレフタレート)のアロイに適用すると,広範な組成でナノオーダーの特異的な連続構造を形成し,耐薬品性,耐衝撃性,耐熱性,耐湿熱性,透明性といった各種特性を飛躍的に高めることが可能になったという。

ニュース・関連リンク

三菱化学,黒崎事業所にPC樹脂製造設備を増設し,需要増大に対応

(Tech-On!,2006年4月10日)

有機EL向けプラスチック基板,米GE-Plastics社が開発

(Tech-On!,2006年3月28日)

セイコーエプソンがフレキシブル基板上に有機FeRAMを作製,±15Vで動作を確認

(Tech-On!,2006年3月27日)

特集・樹脂活用術

(日経ものづくり2006年2月号)

【ポリマー材料フォーラム】三菱レイヨン,PCの透明性/耐熱性を維持しながら流動性を高める改質剤

(Tech-On!,2005年11月21日)

【FPD】米GE,バックライト向け拡散シートをテレビ用途に展開

(Tech-On!,2005年10月20日)

東レ,2種類の樹脂を混合しそれぞれの優れた特性だけを引き出すナノアロイ技術を開発

(Tech-On!,2005年10月7日)

三菱ガス化学,ポリカーボネートシート・フィルム事業の強化で製造部門を統合

(Tech-On!,2005年9月9日)